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書店に並ぶ「成功者のキャリア」をマネてはいけない理由【就活・転職の常識を疑え】

就職活動や転職活動には、さまざまな「常識」があります。しかし、それは本当に正しいのでしょうか。企業の採用・人事担当として、2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「成功者」のマネは危険?
「成功者」のマネは危険?

 就職活動や転職活動では、さまざまな「常識」とされることがあります。しかし、その常識は本当に正しいのか、時には疑ってみることも必要かもしれません。企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が「成功者のキャリアをマネしてはいけない理由」を解説します。

成功者は「生存者」

 就職や転職を考える際、お手本とするのは、いわゆる「成功者」のキャリアでしょう。書店に行けば、ビジネスなどで成功した人たちの「私はこうして成功した」とうたう本が並び、その人がたどった道を思わずマネしたくなる人もいるでしょう。しかし、それは「生存者バイアス」に陥る危険性があります。生存者バイアスとは、生き残った人のみからモノを考えてしまうことから生じる誤った判断のことです。

 例えば、1万時間トレーニングを積んだ人はその道で一流になれるという「1万時間の法則」というものがありますが、1万時間トレーニングしても一流になっていない人だっているでしょう。もしかすると、早めに方向転換する方がよい場合だってあり得ます。消え去った人まで考えなければ、本当の成功の理由など分からないのです。

 また、成功者はそれぞれの道の熟練者であることがほとんどです。ここにも落とし穴があります。熟練者は無意識に高度な技能を用いることができる人です。意識せずにできるということは、「自分がやっていることを知らない」ことがあるということです。

「自分はこうやっているから成功した」という成功者の話を素直に信じることはできません。うそをついているわけではありませんが、「言っていること」と「本当にやっていること」が違うかもしれないからです。

 これを避けるには、成功者の行動を実際に観察するしかありません。ただ、その場合、観察できた行動のうち何が成功につながっているのか分からないため、いったん完全コピーするしかないのです。

ロールモデルは身近な人に

 このように、成功者という「遠く」にいる人をお手本にキャリアを歩んでいくのは結構難しいことが分かります。遠くの人である成功者は、その裏にどんな敗者がいたか分かりませんし、実際にどんな行動を取っているのか分からないからです。

 そこで、おすすめしたいのは、もっと身近な「少し先」にいる“イケてる”先輩をロールモデルにすることです。彼らであれば、成功していくプロセスも、くじけていく姿も見えますし、日々行っていることも観察できます。彼らに追いついたら、その「少し先」にいる人をまた新しいロールモデルにするということを、どんどん続けていけばよいのです。

 そんなことで成功者になれるのか、遠くへ行けるのかと思うかもしれません。しかし、実は高い理想や目標を掲げることは、成功の必要条件ではありません。成功者に共通する要素はむしろ「今を生きる」ことです。いきなり大きなゴールを見据えずに、目の前にあるスモールゴールに夢中で取り組み、成果を出し、次のスモールゴールに取り組むということを繰り返せば、遠くへ行けるのです。

 キャリアは長距離走です。遠くばかり見ていては、少しも進んでいないように見え、気持ちがなえてしまいます。それよりもまずは、目の前のロールモデルに追いつく。これを続けていくことが成功する近道なのです。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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