長男にしてやられた父の遺産争続教訓に…母が長女に残した「遺言」の意味(上)
夫の遺言がなかった反省を生かす
和歌子さんと長女が手をこまぬいていると、長男は次の一手を放ってきました。和歌子さんの家に弁護士事務所から手紙が届いたのです。「福留哲也氏から依頼を受けました。今後は私を通してください。哲也氏に直接連絡してはなりません」。和歌子さんと長男は親子なのに、「連絡するな!」とはあまりにも一方的です。
和歌子さんは仕方なく弁護士と会ったのですが、「田舎ではそういう習わし(長男総取り)なんじゃないですか?」の一点張り。和歌子さんと長女が放棄する以外あり得ないという姿勢でした。
和歌子さんは長女のため、やすやすと放棄するわけにいかず、弁護士との話し合いは平行線を辿ったのですが、それから1年後。今度は家庭裁判所から呼び出しの手紙が届いたのです。どうやら、長男が示談での解決を諦め、家庭裁判所へ遺産分割の調停を申し立てた模様。長男と和歌子さんの決裂は決定的なものとなりました。
最終的には和歌子さんが譲歩し、長男の相続分を4分の1から2分の1へ引き上げ、和歌子さんは4分の1、長女も4分の1という形で調停が成立したのですが、逝去から解決まで3年もかかり、和歌子さんと長女は長い間、苦しい思いをし続けました。これほど長期化した理由の一つに、夫が遺言を残さなかったことが挙げられます。
「私がいつまでも元気で健康ならいいのですが、私もいい年です。いつ何があるのか分かりません」
和歌子さんは弱音を吐きますが、やはり、夫が健在だった3年前と生活環境が変わったのは確かです。環境の変化は心身ともに負担が伴うので、以前に比べて病気やけがのリスクは高まっています。万が一の場合に備え、残された長女が困らないよう早め早めに遺言を作成しておくのが賢明でしょう。夫の遺産相続の反省を生かすという意味でも、遺言を残した方がよい理由は以下5つです。
(1)家庭裁判所の検認を経ずに遺産相続を進めることができる
「(遺産分割の)調停は本当に嫌な感じでした」
和歌子さんはそう振り返りますが、検認とは家庭裁判所が遺言を証拠として保全する制度です。現在、高齢化の影響で亡くなる人が多く、検認を求める人が増えており、家庭裁判所は非常に混雑しています。検認の申し立てから完了まで半年以上待たされることが予想されます。
検認の場合も家庭裁判所へ足を運ばなければなりません。しかも、裁判所内で見知らぬ調停委員や裁判官を相手に話すのは緊張しますし、遺言を巡って長女が長男と同じ部屋で待機するのは苦痛でしょう。そのため、和歌子さんは検認が不要な遺言を残すことを望んでいましたが、具体的にどうすればよいのでしょうか。
1つ目は「自筆証書遺言を法務局へ預ける」、2つ目は「公正証書遺言を作る」です。
1つ目の自筆証書遺言ですが、これは公証人役場を通さず自分で作った遺言のことです。自筆証書遺言でも法務局へ預ければ家庭裁判所の検認は不要ですが、この制度ができるのは2020年7月です。今回の場合、今すぐ遺言を作るのだから、新しい制度の開始に間に合いません。
また、自筆証書遺言は(財産目録を除き)すべて和歌子さんが手書きをしなければなりません。「長女にすべて相続させる」という簡単な内容ならよいのですが、遺言執行人や報酬、葬儀の方法などを盛り込むと、もっと複雑で長文なので手書きは大変です。
2つ目は公正証書遺言です。これは公証人の認証を得た公文書です。和歌子さんが公証人役場へ出向き、公証人の面前で署名をします。公証人が遺言の有効性を証明してくれるので家庭裁判所の検認は不要です。そのことを踏まえた上で、筆者は「遺言を公正証書にしましょう」と提案したのです。


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