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夫に離婚を切り出された59歳主婦、離婚せずに夫の死を待つ「打算」(下)

夫から突然離婚を切り出され、離婚届にハンコを押すかどうかで悩んでいる一人の女性。夫の希望条件で離婚した場合と離婚せずに夫が亡くなった場合で、手に入る金額は大きく異なるようです。

夫が突然、離婚を切り出してきて…
夫が突然、離婚を切り出してきて…

 夫から前触れもなく離婚を切り出され、離婚届にハンコを押すかどうかで悩んでいる、川上啓子さんのケース。後編の今回は、離婚せずに夫が亡くなった場合に手に入る金額を試算します。

「離婚せず夫が亡くなる」場合の試算

 一方、啓子さんは急いで離婚する必要があるのでしょうか。夫の体調を考えれば、離婚せずに放置しておいてもまた夫が倒れ、最悪の場合、そのまま亡くなる可能性もあります。私は不謹慎を承知の上で、「死別する場合と比べてみてはいかがでしょうか」と伝え、「夫の希望条件で離婚する」「離婚せずに夫が亡くなる」という2パターンの差額を計算してみることにしたのです。

 現時点では、夫そして啓子さんの余命は定かではありません。しかし、何らかの期間を設定しないと「死別の場合、妻が合計でいくらもらえるのか」を計算しようがないので、仮に「夫は3年後に逝去」「妻は80歳まで健在」「夫は遺言を残していない」との前提で数字を算出してみました。

B.夫が離婚協議中に死別する場合→計8528万円

1.生活費(+720万円)
家庭裁判所が公表している婚姻費用(生活費)算定表に夫婦の年収を当てはめると、毎月20万円が妥当な金額なので、夫が生活費の支払いを止めても、裁判所を使って支払わせることができる。毎月20万円×3年(36カ月)=720万円。

2.住宅ローン(負担なし)
銀行への返済義務を負っているのは、自宅の居住者(妻)ではなく、住宅ローンの債務者(夫)。途中で夫が亡くなった場合、団体信用生命保険(=団信)が適用され、保険金と住宅ローンが相殺される。

3.自宅の維持費(-720万円)
固定資産税や都市計画税、修繕積立金、管理費は不動産の所有権者が納める原則なので、離婚協議中であっても夫が生きている間は夫が負担。夫が亡くなると、自宅マンションの所有権の2分の1を啓子さんが相続するので、維持費の2分の1も啓子さんが負担。年80万円×2分の1×18年間=720万円。

4.年金(+遺族年金1728万円)
夫が亡くなってから、自分の年金を受給するまでの間(62~65歳)、遺族年金を受給することができる。夫の年収から計算すると遺族年金は毎月13万円(×3年間=468万円)。

妻が65歳で自分の年金を受給し始めると、その分が遺族年金から差し引かれるので、遺族年金(月7万円)+国民年金(月6万円)。啓子さんが80歳まで健在ならば、15年間(65~80歳)で受け取れるのは計2340万円。

5.夫の特有財産(+2500万円)
妻の法定相続分は全体の2分の1。井上家が代々守ってきた実家の土地建物など父親が生前に築いた財産は5000万円相当なので、2500万円が手に入る。

6.夫婦の共有財産(+400万円)
妻の法定相続分は全体の2分の1。啓子さんによると、貯金は800万円なので400万円が手に入る。

7.自社株(+評価額不明)
妻の法定相続分は全体の2分の1なので自社株の2分の1が手に入る。中小零細企業の株式は流動性が低く、算定困難なので評価額は算出せず。

8.自宅の所有権(+1400万円)
妻の法定相続分は全体の2分の1。自宅マンションの固定資産税評価額は2800万円なので、所有権の2分の1(1400万円相当)が手に入る。

9.退職金(+2500万円)
小規模企業共済の場合、契約者死亡の際の第一受取人は「戸籍上の妻」なので、妻が2500万円すべてを受け取る。

 このように、夫が提示してきた条件で離婚する場合は5580万円、夫が離婚協議中に死別する場合は8528万円なので、啓子さんは、離婚せずに夫が亡くなるまで時間を稼いだ方が2948万円も有利なのです。

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露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)

露木行政書士事務所代表

1980年12月24日生まれ。いわゆる松坂世代。国学院大学法学部卒。行政書士・ファイナンシャルプランナー(FP)。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化し行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界最大規模に成長させる。他で断られた「相談難民」を積極的に引き受けている。自己破産した相手から慰謝料を回収する、行方不明になった相手に手切れ金を支払わせるなど、数々の難題に取り組み、「不可能を可能」にしてきた。朝日新聞、日本経済新聞、ダイヤモンドオンライン、プレジデントオンラインで連載を担当。星海社の新人賞(特別賞)を受賞するなど執筆力も高く評価されている。また「情報格差の解消」に熱心で、積極的にメディアに登場。心理学、交渉術、法律に関する著書を数多く出版し「男のための最強離婚術」(7刷)「男の離婚」(4刷、いずれもメタモル出版)「婚活貧乏」(中央公論新社、1万2000部)「みんなの不倫」(宝島社、1万部)など根強い人気がある。仕事では全国を飛び回るなど多忙を極めるが、私生活では30年以上にわたり「田舎暮らし」(神奈川県大磯町)を自ら実践し「ロハス」「地産地消」「食育」の普及に努めている。