夫に離婚を切り出された59歳主婦、離婚せずに夫の死を待つ「打算」(下)
「あえて何もしない」を選択する
なぜ、離婚と死別で3000万円もの違いが生じるのでしょうか。まず、離婚の場合の年金分割(夫から妻へ月3万円)より、死別の場合の遺族年金(13万円)の方が大きいことが挙げられます。
次に注意したいのは、離婚の条件はあくまで夫の希望であり、相場ではないことです。夫の希望条件からは、離婚財産分与の対象である夫婦の財産、自社株、自宅マンションや退職金が除外されており、こんな内容で離婚したら啓子さんにとって損です。
実家の財産は一人息子である夫が相続したのだから、啓子さんが直接的に貢献したわけではありません。しかし、相続財産には「実家の財産」も含まれるのだから、財産面でも離婚より死別の方が有利なのです。
離婚成立には基本的に、啓子さんの同意が必要です。啓子さんが離婚届にサインをするまで、夫は何度でも「別れてほしい」と言い続けるでしょうが、啓子さんが首を縦に振らない限り離婚することはできません。
「『気持ちの整理がつかない』『経済的に不安だ』『息子が反対している』などと、のらりくらりとかわしておく手もありますが、どうしますか」
私は啓子さんに尋ねたのですが、啓子さんは金銭的な損得はもちろん、35年の結婚生活に終止符を打つ勇気もないし、齢59歳で今さら「離婚」の2文字を考える気力もなかったので「あえて何もしない」を選んだのです。
もちろん、35年も連れ添った相手に「死んでほしい」と願うのは罪悪感が伴いますが、夫のわがままをかなえるために不利な条件をのむ義理はないので、啓子さんが自分の選択を恥じることはないのです。
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)
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