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売れない土地を国が引き取る? 新制度「相続土地国庫帰属制度」って何? 利用するメリット&デメリット、専門家が解説

4月27日からスタートした「相続土地国庫帰属制度」。「不要な土地を手放したい」人にとっては助けとなり得るものの、デメリットを気にする人も…。専門家が疑問に答えます。

「相続土地国庫帰属制度」ってどんな新制度?(画像はイメージ)
「相続土地国庫帰属制度」ってどんな新制度?(画像はイメージ)

 4月27日から新制度「相続土地国庫帰属制度」がスタートしました。田畑や森林、宅地などの土地の所有権を相続した人が、その土地を国に引き渡すことができ、「不要な土地を手放したい」と考える人にとっては大きな助けとなり得る制度です。しかし実際のところ、「デメリットもあるのでは?」と気にする人も少なくありません。

「相続土地国庫帰属制度」とはどんな制度なのか、どのようなメリットとデメリットがあるのか…さまざまな疑問について、不動産の引き取り事業を手掛ける「LandIssues」(東京都千代田区)、不動産・遺産相続コンサルティングなどを手掛ける「プロサーチ」(同)代表取締役の松尾企晴さんに聞きました。

「資産」として見ている親、「生前に処分して」と言えない子…

Q.「相続土地国庫帰属制度」とは、どのような制度ですか。

松尾さん「『相続土地国庫帰属制度』(以下「国庫帰属制度」)とは、簡単に言うと、相続で取得した土地を国が有料で引き取ってくれる新しい制度です。

売れない不動産、いわゆる“負動産”を手放すには、これまでは『相続放棄』や相続税の物納をするしか選択肢がありませんでした。しかし、相続放棄すると遺産の全てを相続できなくなってしまうことなどから、結局、子は親から“負動産”を引き継ぐことになっていました。そんな中で、国庫帰属制度は、相続放棄とは異なり、“負動産”だけを手放すことができるため、この制度のスタートを心待ちにしていた人たちからの問い合わせが後を絶たない状況です。

ただし、誰でも使えて、どのような不動産でも引き取ってくれるわけではなく、大きく次の3つの条件があります」

【ヒトの要件】

「相続や遺贈(遺言で相続させること)で土地を取得した相続人」に限ります。これは、土地の登記簿謄本の取得原因の欄に「相続」「遺贈」と記載されているかどうかで分かります。取得原因に「売買」と書かれていると、その所有者に相続が発生し、相続人が相続するまで国庫帰属制度を使えないということです。

土地を共有している場合、共有者に一人でも「相続等」で取得している人がいると、共有者全員であれば国庫帰属制度の申請ができます。

【モノの要件】

「土地のみ」の場合に限るため、例えば、「建物がある土地」は引き取ってくれません。他にも、国庫帰属制度を利用できない土地には計10個の条件があります。

(1)建物が存在する土地
(2)担保権などの負担がある土地
(3)通路、その他の他人による使用が予定される土地
(4)土壌汚染されている土地
(5)境界が明らかでない土地
(6)崖がある土地
(7)工作物、車両、樹木が地上にある土地
(8)地下に除去すべき有体物がある土地
(9)隣人とのトラブルを抱えている土地
(10)通常の管理または処分するにあたり、過分の費用、または労力を要する土地

【お金の要件】

「モノの要件」をクリアし、所有者が負担金を国に支払うことで、国庫帰属されます。かかる費用は、審査費が1筆あたり1万4000円、負担金は20万円からです。

管轄法務局に申請書等を提出すると、書類と現地の審査が始まります。このとき、審査費用としてこの金額がかかります。審査の結果、国庫帰属がNGであっても、審査費用は返還されません。

なお、土地にかかっている都市計画法などの制限によって負担金は変わります。負担金に関しては、法務省のウェブサイトで確認できます。

Q.「相続土地国庫帰属制度」のメリット、デメリットとは。

松尾さん「メリットは先述の通り、相続放棄と異なり、申請者の意思で土地ごとに制度を使えることです。売れなくて困っている問題を解決できる(後世に残さない)ことが最大のメリットでしょう。

売れない土地を所有している人にとって、こうした画期的な制度ができたことは朗報でしたが、一方でデメリットもいくつかあります。まず、相続や遺贈で土地を取得した後でないと使えないことです。一度は子などに相続させる必要があるので、相続登記費用などの負担が生じます。

中でも、一番のデメリットは、先述した『モノの条件』が厳しい点です。特に、(1)建物が存在する土地(5)境界が明らかでない土地(6)崖がある土地(10)通常の管理または処分にあたり過分の費用または労力を要する土地―の4つは、押さえておきたい注意ポイントです。

(1)…建物が存在する土地は、解体費用を負担することになります。例えば、床面積100平方メートルの木造家屋の解体費用は、150万〜200万円程度かかります。

(5)…境界を明らかにするため、専門家に費用を払って依頼するケースが大半です。土地家屋調査士に依頼すると30万円以上かかると考えてよいでしょう。

(6)…『角度30度、高さ5メートル以上の斜面』を崖としています。

(10)…別荘の管理費、私道の管理などの負担がある土地は原則、引き取りが厳しいです。 国庫帰属制度のニーズとして高いのが別荘地ですが、制度を使えず、現状は手放せない土地のままとなるでしょう。

『公道から対象地まで通行できること』も条件にあるなど、『モノの条件』は思っている以上に厳しいというのが、専門家の間でいわれていることです。ただし、条件が厳しいからと最初から諦めず、国庫帰属制度に詳しい専門家や法務局の事前相談を活用して、『私の土地は国庫帰属制度が使える可能性があるのか』『どのように整備すれば国庫帰属制度を使えるのか』を確認しましょう」

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松尾企晴(まつお・きはる)

プロサーチ代表取締役、LandIssues代表取締役、2級ファイナンシャル・プランニング技能士、相続診断士(R)、宅地建物取引士など

不動産賃貸管理会社に5年間勤め、2008年に「不動産を所有し、相続や税に悩む人の問題解決」を専門とするプロサーチに入社。2017年より同社代表取締役。不動産業界ではいち早く「家族信託(R)」を取り入れた提案を実践しており、証券会社や生命保険会社、不動産会社などへの不動産相続に関する研修会、プロやお客さま向けのセミナー講師も行う。家族信託(R)をはじめ、借地や底地、生産緑地などの不動産対策、CF改善、相続対策など幅広いジャンルに精通し、これまで5000人以上の悩みや不安を解決。「話をじっくり聞く」「お客さまの在りたい姿を引き出す」という、提案ありきではない姿勢に定評がある。特定の商品に誘導しない公平なアドバイスは、同業や士業、生命保険営業の専門家からも喜ばれている。さらに、2020年には、引き取り手のいない不動産の問題解決のため、LandIssues(ランドイシューズ)を設立。遊休不動産を再生させ、日本を元気にするために日々活動をしている。プロサーチ(https://www.pro-search.jp/)、LandIssues(https://land-issue.com/)。

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