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ミス発生!「全部おまえの責任だ」と叫ぶ上司に「部長も確認しましたよね」と反論すべきか?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

部下のミスは誰の責任?
部下のミスは誰の責任?

 どんな仕事でもミスはしない方がよいものですが、人間はミスする生き物ですから、なかなかゼロにはできません。そこで、社員のミスで社外に迷惑をかけないよう、例えば見積書や契約書などの重要書類は、上司がチェックをしてから社外に提示するものです。

 しかし、その上司がミスを見逃してしまうこともあり得ます。そうした際、ミスを見逃したことを棚に上げて、「全部おまえの責任だ!」と部下に全責任を押し付ける上司も、残念ながらいるようです。そうした上司に遭遇してしまった場合、部下はどのようにすべきなのでしょうか。そもそも、「ミスの責任」は誰にあるものなのでしょうか。

「責任」の2つの意味

「責任」には2つの意味があります。1つ目は、問題が発生した際に、その問題の「原因の所在」が誰にあるのかということです。2つ目は、その問題を「解決する主体」が誰であるのかということです。

「これは誰の責任なのか」と言った場合、「誰のせいなのか」(責めを負う人は誰なのか)という意味であれば前者、「誰が解決するのか」(誰がその重責を負うのか)という意味であれば後者ということです。まずは、今回のテーマを考える上で、どちらの意味で考えるのか、はっきりしておくべきでしょう。

「原因の所在」の場合

 まず1つ目の意味である「原因の所在」で考えてみましょう。会社全体として見た場合、上司は「責任者」と呼ばれることも多いように、最終的には、部下のやったことはすべて「上司の責任」です。部下の能力を見て、「この仕事はできるはずだ」と思ってアサインをしたわけですので、その結果が失敗に終わったとすれば、指示した側に原因があると思います。

 部下の能力の見立てミスかもしれませんし、仕事の負荷の見立てミスかもしれません。また、上司の役割はイレギュラーやトラブル対応も含まれます。ですから、ミスに対する予防策はもちろん、起こった際の火消しも、そもそも役割です。となれば、最終的にミスが起こってしまった「原因」は、最終的には上司にあると言わざるを得ません。

 しかし、です。いくら上司に最終責任があるとはいえ、直接的にミスしたのが部下だとすれば、「会社として公式にどうか」は関係なく、「自分自身の気持ちとして」ミスを起こした当人が責任意識(「このミスの原因は自分にある」という自責感)を持つべきでしょう。

「自分に任せた方が悪い」「指示通りにしたら失敗したんだから、指示した方が悪い」というのは超正論です。確かに正しいです。しかし、そのように考える人に、重要な仕事を任せようとか、権限移譲をして自由にやらせてみようと思う人はいません。「(公式にはどうあれ)任された以上、自分が最終責任者」というつもりでやっている人にこそ、本当に最終責任者のポジションがやってくるのです。

「解決する主体」の場合

 次に、2つ目の「解決する主体」について考えてみましょう。先述の通り、トラブルやイレギュラーへの対応は、上司の役割の一つです。そうなれば、この観点から考えても、「解決する(公式の)主体」は上司であることは紛れもありません。

 人を使おうが自分でやろうが、そんな手段は関係なく、経営者から見れば、とにかくどんな手を使ってでも、問題を解決してくれればよい。これが上司に求められていることです。しかし、だからと言って、部下が「ミスは確かに自分が起こしたが、解決するのは上司の仕事ですよね」と目の前の仕事を放置したら、誰からも信頼されなくなるでしょう。

 例えば、上司の指示におかしなところがあり、そのままやってミスになったとしても、上司に対して、指示の再確認や代替案の提案をしていたでしょうか。経験が少なくそういうことができなかったとしても、「仕方ない」で終わるのではなく、「もっと勉強しておけば、経験を積んでおけば、あの上司の指示に対して、修正案を出すことができた」と悔やんで、「次からは上司の指示をうのみにするのではなく、自分自身でもこの方向性でよいのかを改めて検討してから実行に移すようにしよう」と考える人の方を、人は信頼するのではないでしょうか。

「当事者意識のある人」に仕事はやってくる

 さて、ここまで見てきたように、公式には「部下のミスは、すべて上司の責任」だと筆者は思います。それはそうなのですが、部下としては「自分が起こしたミスは、すべて自分の責任」だと思うスタンスの方が、その後その人は成長していき、よい仕事をどんどん任される人になるであろうと思います。

 ですから、上司が、本当は上司に責任があることを、部下である自分に押し付けてきた際には「チャンス」だと思って、「はい、このミスの全責任は自分にあります」と言う方がよいと筆者は考えます。公式には責任者ではないのに、「責任者だ」と思って事に当たる姿勢、これを一般に「当事者意識」と言います。

 周囲には「なんと潔い、力強い人だ」という印象しか残らないでしょう。逆に、「これは部下が起こしたミスだ」と責任逃れをする上司は、そのまた上司の経営者などには「管理職をする器なし」と判断されることでしょう。放っておくのが得策です。

(人材研究所代表 曽和利光)

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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