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妊娠中の「旅行」…行っても大丈夫? 母体や胎児にどんな影響? 産婦人科医に聞く

妊娠中に「旅行したい」と考える妊婦さんもいると思います。しかし、母体や胎児への影響を気にする声も少なくありません。妊娠中に旅行へ行ってもいいのか、産婦人科医に聞いてみました。

妊娠中、旅行へ行っても大丈夫?
妊娠中、旅行へ行っても大丈夫?

 格闘家でタレントの才賀紀左衛門さんが8月25日、自身のブログを更新し、事実婚の妻・絵莉さんと長女の3人で、北海道旅行に行くことを報告しました。絵莉さんは現在妊娠9カ月、出産は10月予定とのことで、自身のブログで、才賀さんから産後2カ月の時期となる今年の年末に「ハワイに行こう」と誘われていることを明かし、「わたし妊婦ってこと忘れてる?」と困惑している本音をつづっています。

 妊娠後期の旅行について、「大丈夫ですか?」「妊娠9カ月で飛行機に乗るのは心配」「妊娠後期の旅行はさすがに気が引ける…」といった声の他、産後間もない時期の旅行についても「産後2カ月で海外はちょっと…」など、心配の声が上がっています。

 妊娠中や産後間もない時期に、「旅行」に出掛けてもよいのでしょうか。母体や胎児への影響や注意点について、産婦人科医の尾西芳子さんに聞きました。

妊娠初期は「自然流産」のリスクが高い

Q.妊娠中は、旅行に行ってもよいのですか。

尾西さん「妊娠中の旅行は、『全くダメ』ということはありません。出産してからしばらくは旅行に行くのが難しいでしょうから、パートナーと2人の時間を過ごしたり、温泉につかってむくみをケアしたりするのも、妊娠中の大切な時間です。ただ、時期や場所をしっかり考えて旅行プランを立てる必要があります。時期別の注意点は次の通りです」

【初期(妊娠4カ月ごろまで)】

この時期は「自然流産」のリスクが高い時期です。一般的に、自然流産のリスクは15%程度といわれており、決して低い確率ではありません。この時期の流産は胎児側の問題が原因で、「ママが飛行機に乗ったから」「動き回ったから」などによるものではありません。ただ、流産となると急な出血や激しい腹痛が起こる場合もあり、旅行先でそうした事態になると病院探しも大変です。また後々、両親や周りから「旅行したせいで…」などと言われて嫌な思いをすることもあります。

人によっては、この時期はつわりがつらいこともあるので、妊婦さんの体調を第一に考え、旅行に行くのであれば近距離で行ける場所を選びましょう。ちなみに、「飛行機に乗ると気圧の影響などで流産しやすい」といったうわさがありますが、実際はそのようなことはありません。

【安定期(妊娠5カ月)以降】

妊娠5カ月に入ると、いわゆる「安定期」です。この時期、妊婦さんは一番動きやすい時期です。流産率も下がり、つわりも終わって体も比較的楽になります。2〜3泊の旅行であれば許可する病院も多いと思います。

ただし、妊娠22週(6カ月)を超えて万が一早産になった場合、これまでの妊娠経過が分からないため、旅行先の病院に受け入れてもらえない可能性もありますし、とてもリスクの高い出産になります。また、運よく無事出産できた場合も、赤ちゃんは旅行先の病院の新生児集中治療室(NICU)に入院することになり、しばらくは転院することもできません。

そうなった場合、ママやパパが現地で長期滞在になる可能性や、海外の場合は日本の健康保険が適用されず、1000万円以上の費用がかかることもあります。いずれにしても、妊娠中の海外旅行はお勧めできません。

Q.「妊娠後期」の旅行についてはどうでしょうか。

尾西さん「妊娠8カ月に入ったら、遠出は控えた方がよいでしょう。妊婦さんは産休に入ってお仕事もお休みになるので退屈かもしれませんが、おなかが大きくなり、張りやすくなってくる時期です。長時間の同じ体勢は、妊婦さんにも赤ちゃんにもつらい環境です。

また、大きくなったおなかが血管を圧迫することで、いわゆるエコノミークラス症候群、正式には静脈血栓塞栓(そくせん)症のリスクも高くなります。妊娠中期と同じく、早産になった場合のリスクも大きいので、生まれてくる赤ちゃんのための準備をしながら、のんびり過ごしましょう」

Q.特に、妊娠中の旅行を推奨しない妊婦の特徴はありますか。

尾西さん「妊娠中に『切迫早産』と診断されていたり、『赤ちゃんが小さい』と医師に言われていたりする場合は、なるべく安静にすることが大切です。また、『妊娠高血圧症』や『妊娠糖尿病』と診断されている場合も、旅行自体がダメではないのですが、『旅行中だから』とついつい食べ過ぎてしまうことなどがないよう、慎重にしましょう。

また、2人目以降の妊娠の場合、前児の妊娠時に妊娠高血圧症や妊娠糖尿病と診断されていた人は、今回の妊娠では現状問題がなくても、今後発症するリスクが高いので要注意です」

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尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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