ミスは必ず起きるけど…「同じミスを繰り返す部下」、どうする? 4つの処方箋
就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

人が確認不足や思い違いなどによって起こすミスを「ヒューマンエラー」と言います。ヒューマンエラーは時に大きなトラブルを巻き起こし、過去の例でも、5000万件分の年金データの持ち主が分からなくなったり、某証券会社で「1株61万円の売り」を「61万株1円売り」と誤入力して発注し、数百億円の損失を出したりと、枚挙にいとまがありません。
人は必ずミスをするので、どんな仕事でもマネジャーはヒューマンエラーによるミスが起こることを前提に、業務の設計をしなければなりません。ただ、いくらミスが起こらないように設計しても、ヒューマンエラーによるミスを繰り返す人がいた場合、どう対処すればよいのでしょうか。以下、4つのよくある原因と、それへの対策を述べてみます。
【その1】アンコンシャス・バイアスを探る
決まったルール・手順を使って何かを解いたり処理したりする(「アルゴリズム」と呼びます)AIと違って、人は自分の経験や知識に基づいて直感的に考える(「ヒューリスティック」と呼びます)ことも多くあります。このヒューリスティックが、ヒューマンエラーの原因になっていることが多々あるのです。
ヒューリスティックによる思考は、スピードが速い上に、大体は正解であることも多いので、仕事上便利です。しかし一方で、個々人の持つ無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が反映される問題があり、これがミスを引き起こします。
解決するためには、ミスをする当人が自らのバイアスに気付く必要がありますが、これは自分だけでは難しいため、マネジャーなど他者からフィードバックを受ける必要があります。一つ一つの作業について順を追って確認しながら、「なぜ、このプロセスではこうしたのか」と行動の裏にある思考を探ります。「いや、それはこう考えたからです」と当人の考えを聞き出し、そこにバイアスが含まれていないか、チェックしていきましょう。
【その2】認知資源を使う無駄な仕事をやめる
もともとの能力や性格がその仕事に合っていたとしても、人は精神的・身体的に疲労すると、認知機能が下がります。集中力、注意力が必要な思考を行うと消耗する、脳が使える資源のことを「認知資源」と言いますが、これは人それぞれに限界があります。つまり、不必要なことに判断などの認知資源を使うと、本当に必要な時に疲れてしまって認知資源が枯渇し、注意不足やパニックの状態になったり、認知資源をあまり使わないヒューリスティックが発動して、先述のアンコンシャス・バイアスが出やすくなったりするということです。
ミスをする当人の仕事を詳細に分析して、無駄なことに認知資源を使っていないか、確認してみてください。「全く無駄な仕事」はないとは思いますが、ミスが続く人には「やった方がいい」ことはやめさせて、「やらなければならないこと」だけにしてあげるなど、優先順位をマネジャーがつけてあげてください。認知資源を使い過ぎな人は、優先順位がつけられない人が多いものです。
【その3】ミスを引き起こす「雰囲気」に着目する
ミスを起こすのは個人でも、その原因が組織にある場合もあります。例えば、職場が売り上げやスピードなどの成果至上主義の雰囲気に陥っている場合、ミスを起こさないように確認することなどリスクヘッジの行動については、どうしても軽視されがちです。
この場合、職場の雰囲気を放置しておいて、個人に対してだけ、「ミスを起こさないように」と注意しても、根本的な解決にはなりません。働きかけるべきはミスを起こす当人だけでなく、むしろその雰囲気をつくり出しているものに対してです。当人に指示を出している人の考え方が、「質より量・スピードだ!」ということであれば、その人の考え方を改めさせるようにしなければなりませんし、評価制度やインセンティブシステムがミスを誘発する雰囲気をつくり出している場合は、制度やシステムを変えていかねばなりません。
【その4】ミスの影響を理解させる
これらすべてを検討しても思い当たる節がない場合、もしかするとミスをする当人は、そのミスがどれほどの影響を会社や同僚に与えるのかという深刻さを、理解していないのかもしれません。
特に、仕事の全体観が持てていない若手であれば、「こんなミスくらいは、たいしたことがない」と悪気なく思っているかもしれません。また、ミスをしても結局は誰かが尻拭いをするでしょうから、結果としては最悪の事態になっておらず、ミスの深刻さが理解できないのも、よくあるパターンです。
ミスの影響が理解できないまま仕事に慣れていけば、どんどん手抜きをするようになり、ミスを誘発します。対処としては、ミス単体だけではなく、そのミスによって、どのような影響が仕事全体、チーム全体、顧客に及ぶのかということを、丁寧に説明して、全体における自分の仕事の位置付けや重要性を理解させることです。重要性が理解できれば、大概の人は慎重に事を運ぶようになるでしょう。
当人の資質だけに目を向けすぎない
この他にも、ミスをしないための必要な情報が当人に届かないようになっているという「情報伝達の問題」や、そもそも知識や経験が不足していてミスを防げない場合もあります。いずれにせよ、ここまで述べてきたように、ミスをする当人の資質にだけに着目していては、これらのミスをなくすことはできません。当人を取り巻く環境やシステムに着目することで、ミスの原因を元から断ってください。
(人材研究所代表 曽和利光)
コメント