娘と家出した妻に毎月6万円を送り続け…人間ATMと化した男が辿り着いた「絆の整理」(上)
長くは続かなかった「震災復縁」
「とにかく娘のことしか頭にありませんでした」
裕司さんは、震災当日の胸の内をこのように回顧してくれましたが、勤務先の会社から早い段階で帰宅を命じられ、向かった先は自宅のマンションではなく、娘さんの保育園。裕司さんは脇目も振らず、一目散に保育園へ走ったそうです。そして娘さんとの対面を果たすと、不幸中の幸いで娘さんには目立ったけがはなかったのですが、裕司さんは驚きのあまり、豆鉄砲を食らったような顔をしていたそう。「いるはずのない人(妻)がそこにいたから」と言いますが、裕司さんより先に妻が到着していたのです。今まで育児にほとんど無関心だった妻でしたが、震災という緊急事態に遭遇して、ようやくスイッチが入ったのでしょうか。裕司さんは妻と離婚するつもりだったので、何とも気まずい雰囲気が流れたのですが、娘さんの右手は裕司さん、左手はお母さんがつないで帰宅したのです。
私は裕司さんに「ご相談の件ですが、離婚のことはどうしますか」と尋ねたのですが、裕司さんは「とりあえず様子見ということで。また動きがあったら相談させてください」と言い残し、しばらくの間、裕司さんからの連絡は途切れたのです。震災のおかげで壊れかけていた夫婦関係が一見、修復されたように見えたのですが……。「震災復縁」は長くは続かなかったのです。
「あのバカ! 震災のデマに乗せられて出て行ったんです!!」
裕司さんはそんなふうに声を荒らげますが、再三にわたって繰り返す余震に怯える日々を送っていました。ようやくライフラインが復旧し始めて落ち着きを取り戻しつつある中、今度は放射能の影響で保育園の土壌から震災前の40倍ものセシウムが検出されたことが追い打ちをかけたのです。目に見えない放射能のせいで妻の不安は日増しに膨らんでいき、夫婦関係の亀裂は取り返しのつかないほど大きくなっていったのです。
たとえば、妻は通販を利用し、西日本産の野菜を取り寄せたのですが、1回の金額は20万円を超えており、誰がどう考えても家族3人の食費の範囲を超えていました。自宅には大量の野菜が届きました。一時的に流布された「西日本産の野菜が品薄になり価格が高騰する」といううわさに流されたのですが、それにしてもです。
「こっちの野菜だってちゃんと選べば大丈夫なのに、なんで勝手なことを!」
裕司さんは妻の「自分さえよければそれでよい」という独りよがりな考え方を目の前に、ただただ閉口するしかなかったのですが、それだけではありませんでした。今度の散財額は30万円。妻は何に30万円も使ってしまったのでしょうか。それはガイガーカウンターです。ガイガーカウンターは放射能を測定する機器ですが、妻は裕司さんの口座からこっそりと30万円を拝借し、ガイガーカウンターを購入したようなのです。
「ガイガーカウンターを貸してくれる自治体もあるじゃないか。なぜ何の相談もしないんだ!!」
裕司さんによると、ガイガーカウンターの相場は2万円だそうですが、頭にきたのは30万円を使い込まれたことよりも、夫婦なのに自分に何の相談もせず、物事を勝手に進めてしまう妻の身勝手さの方。ついには夫に対してこう切り出したそうです。
「西日本に引っ越したい! できるだけ早く!!」
夫婦の自宅(持ち家)も大地震に耐えきれず大規模半壊の状態だったのですが、4歳の娘さんにとって避難所生活は酷です。そのため、娘さんに不憫な思いをさせたくない一心で、震災後も身の危険を承知の上で自宅にとどまり続けたのですが、いくら何でも我慢の限界。一方で裕司さんの思惑は妻とは異なり、ローンを組んで自宅を補修し、今後も自宅に住み続けるつもりだったようで……。「移住」という選択肢は眼中になかったので当然のことながら猛反対したのです。
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)


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