脳梗塞の夫にこき使われ続けた53歳女性、介護離婚で2000万円を“総取り”できた理由(上)
「紙切れで縛るな」「お前はいる意味がない」
「風呂なんて入らなくても死なねーよ!!」
さらに悦子さんが毎朝、夫を風呂に入れようとすると、夫はまるで「嫌々期」の赤子のようにダダをこねるようで、夫を説得して入浴を促すまで小1時間を要するのです。悦子さんも会社へ出勤しなければならず、毎回のように夫のわがままを聞かされるのにうんざりして、夫への声掛けをやめてしまったのですが、そうすると今度は「なんで前みたいに『風呂に入れ』と言わなくなったんだ!」と逆上する始末。
「オムツをしてください」
夫は毎晩のように粗相をするので悦子さんは紙オムツを用意しておいたのですが、そのことが夫のプライドを傷つけたのでしょうか。「馬鹿にするんじゃねー!」と感情的に激怒するばかりで、一向にオムツをつける気配なし。こうして悦子さんは、尿が染み付いた布団をほったらかしにすることもできず、毎週1~2回は朝4時に大型のコインランドリーに行かざるを得なかったのです。ただでさえ体力的に疲弊しているのに布団を洗濯、乾燥してから会社へ出勤する日々はつらかったそうです。
「布団を洗うのにいくらかかると思っているの? オムツもしないし、コインランドリーで1回3000円もかかるんじゃ金銭的にも体力的にも持たないわ!!」
悦子さんはそうやって夫をたしなめたのですが、夫は「それじゃコインランドリー代を払ってやる!」と言い、悦子さんに自分の口座から10万円を引き出すよう指示したのです。しかし、悦子さんがリビングテーブルに置いておいた10万円を夫が持ち出し、あろうことかパチンコに使ってしまったようで……またしても悦子さんは夫に裏切られたのですが、何度も繰り返される散財癖を目の当りにして、さすがに我慢の限界を超えたようです。私は悦子さんへ「先々、離婚が避けられないのなら今しかないのでは」と口添えしておいたのですが、ついに悦子さんは夫に対して三行半を突きつけたのです。
「もう、あんたの面倒はみない!」
悦子さんはありったけの声を上げたのですが、「どういう意味だ?」と言う夫に対して「離婚よ!」と念押ししたのです。
「夫婦はお互いに助け合う義務があるのにどういうことなんだ! お互いに元気な時はともかくとして……面倒を見ないなら夫婦である必要があるのか?」
夫は今まで散々、妻(悦子さん)のことをコキ使ってきたくせに、もしも先に悦子さんが倒れたら自分が面倒を見るのだから、妻が夫を介護するのは「当たり前」と言い出したのです。ただでさえ永遠のテーマとも言える「夫婦とは何か」について、離婚の修羅場というタイミングで問いかけてきたので、悦子さんは答えに窮して何も言えないでいると、夫はさらに畳みかけてきたのです……。
「セックスだ! 手足の麻痺でセックスができないから、お前と結婚していても意味がない!!」
そんなふうに夫は、「夫婦とは何か」の答えは「セックスだ」と言い出したのですが、そもそも夫はたまにしか風呂に入らず、浮浪者のような異臭を漂わせているので、夫が少しでも近寄ろうものなら悦子さんは思わず顔をしかめたそうですが、夫はそのことを棚に上げて「何があろうと夫婦ならセックスすべきだ」と言わんばかりだったそう。
「病気になったのはお前がストレスを与えたせいだろ?! そのせいで酒の量が増えたんだ!」
夫は息つく暇もなく、さらなる暴言を吹きかけてきたのですが、身体の麻痺で移動が、会社の退職で金銭が、そして何よりセックスレスで性欲が自由にならない現状にいら立つのは仕方がないにせよ、誰がどう考えても「言い過ぎ」です。そもそも、脳梗塞の原因と考えられる暴飲暴食や大量飲酒を悦子さんは何度も注意してきたのだから「妻のせいで脳梗塞になった」と言われるのは心外でしょう。夫には認知症の症状が現れていないのに、「都合の悪いこと」だけ忘れたフリをするのは今さら無理です。
完全に超えてはいけない最後の一線を超えてしまったので、悦子さんは堪忍袋の緒が切れたように、高血圧の症状も相まって顔はみるみるうちに赤く染まり、手は小刻みに震え、鬼のような形相でにらみつけたのですが、さすがに夫も「このまま(離婚の可否に触れずに妻をこき下ろす)ではヤバい」と思ったのでしょうか。それとも自分が妻に捨てられたという流れはシャクに触るので、自分が妻を捨ててやったという体裁にこだわったのかもしれません。
「紙切れ一枚で俺を縛り付けるな! お前はいる意味がない!!」
(露木行政書士事務所代表 露木幸彦)
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