社長「あすから全員出社だ!」で離職者を出さないための「5つのステップ」
就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。
新型コロナウイルスの感染状況が落ち着きを見せ、日常生活がコロナ禍前の状況へ徐々に戻りつつあります。この2年余りで、感染対策として在宅勤務をはじめとするテレワークが一気に広がりましたが、最近では、企業の中にはオフィスに出社しての勤務を基本とするなど、テレワークの見直しを進め、以前の働き方に戻すような動きもあります。
一方、社員の側には、家庭の事情や、コロナ禍で身に付いてしまった生活習慣をあまり変えたくないことから、テレワークを基本にしたいと考える人も多いようです。そうした状況下で、社長がいきなり、「あすから全員出社だ!」と宣言すると、社員の離職を招きかねません。テレワークと出社の折り合いをどうつけていくべきか、5つの段階に分けて、考えてみましょう。
(1)「慎重に取り組むべき課題」と認識する
少なくとも「出社か、テレワークか」問題は、人事制度を作るくらいの慎重さで取り組まなければならないことを認識するのが第一です。社長が「感染者が減って、出社できるようになったのだから、出社に戻すか」と独断で決定し、翌日全社広報されるといった雑な対応をするところもありますが、社内には出社復帰派もいれば、テレワーク継続派もいますので、どんな判断をしても不満を持つ人が一定数います。
人事制度は「報酬を社員でどう分けるか」についての制度ですが、「誰かの得は誰かの損」になるため、通常半年から1年かけて意見を聞いて議論し、コンセンサスを取りながら慎重に進めます。「出社か、テレワークか」という問題も人事制度と同様、極めて慎重に進めるべき課題です。雑に実行すると、離職やモラールダウンなどの、大きなしっぺ返しを食うことになります。
(2)最初に出す方針は「仮」
ですから、もし出社を前提とする方針にしたい場合も、テレワーク継続の場合も、いきなり「今後はこれでいく」と断定的に実行するのではなく、最初は「仮」として何らかの判断をする方がよいでしょう。
つまり「もし、問題が起これば修正する」「もっとよい判断があれば、それに変える」「しばらくの間様子を見て、議論をしながら検討、決定する」ということを社員に告げるべきでしょう。
そうすれば、ひとまずは自分の意見と違う方針になった社員も、「まあ、これは『仮』だから」と不満をいったん抑えてくれるかもしれません。人事制度改革をする場合と同じく、まずは社員の声を聞いて、事業への影響も考えて、多面的に合理的に決めるのだと宣言するのです。
(3)さまざまなエビデンスを集める
次にやるべきことは、判断をするのに参考になるエビデンス(根拠、証拠となる事実や理論)を、できる限り集めることです。「出社か、テレワークか」問題は、どんなに議論をしたとしても、最終的には「好き、嫌い」の問題になりますので、全員一致の結論が出ることはありません。
ですから、最終的には何らかのエビデンスに基づいて、なんとか反対意見を抑え、納得してもらうしかないのです。そのために、自社の事業最適で考えるとどうなのか、社員のパーソナリティー最適で考えるとどうなのかに関する事例や研究などを、たくさん集めてみましょう。
ただ、事例はあくまで事例です。「よそがやっていたからうちも」一本で納得させることはできないでしょう。自社の方針を補強するための参考程度に考えておきましょう。
(4)腹案を持った上でインタビュー
エビデンスを踏まえて中核メンバーで議論していけば、出社とテレワークのバランスをどう取るべきなのかという腹案が見えてくるでしょう。その腹案が出来上がった上で、今度は社員インタビューを行います。
腹案を持たないままにインタビューをしてはいけません。最終的に実行する方針と違う意見が出ても、「そうか、そうか」と受け入れるように聞いてしまうと、反対者は「自分はこう言ったのに、意見を却下されてしまった。共感してくれていたと思ったのに」と反感を強めてしまうからです。
腹案があった上でインタビューをすれば、もし反対意見が出たら、その場で簡単な議論ができます。集めたエビデンスを示して軽く説得することもできるでしょう。つまり、インタビューは情報収集の場だけでなく、「事前説得」「事前意見調整」の場でもあるのです。
(5)誰をケアすべきか分かった状態で実行
ここまでした上で、何らかの判断を下して実行すれば、事前にある程度反対意見については軽い説得ができていますし、誰がこの方針に不満を持つのか、つまりアフターケアをすべきなのかも分かった上での実行となります。
実行してから不満が噴出するのと、事前にケアすべき人や反論が何か分かった上で実行するのとでは、天と地との差があります。どこまで言っても、「出社か、テレワークか」で意見が全員一致することはないのですから、これくらいの慎重さを持って進めてしかるべきではないでしょうか。
この問題は、科学的にどちらがよいのかという問題だけではなく、社内の合意形成をどううまくつくるのかという問題なのです。それを意識して実行すれば、どのような判断であったとしても、トラブルは最小限に防げるのではないかと思います。
(人材研究所代表 曽和利光)
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