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日本の「医療崩壊」は既に始まっているのか

東京都内で、新型コロナ陽性で入院・療養先が決まらない人が数千人に上ったり、新型コロナ以外の急患の搬送先が見つからなかったりしています。既に「医療崩壊」を起こしているのではないでしょうか。

「医療崩壊」は既に始まっている?
「医療崩壊」は既に始まっている?

 新型コロナウイルスが再拡大し、政府は1月7日、首都圏1都3県に緊急事態宣言を発令、1月13日には計11都府県へと宣言対象を拡大しました。日本医師会などから「医療崩壊の危機」と何度も発令を促されて、ようやく一部地域に宣言を出した格好ですが、都内では、新型コロナ陽性と判明しても入院・療養先が決まらない人が数千人に上ったり、新型コロナ以外の急患の搬送先がなかなか見つからなかったりしています。

 この状態は既に「医療崩壊」なのではないでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

「医療の非常事態」であることは確か

Q.「医療崩壊」とは一般に、どのような状態を指すのでしょうか。

森さん「医療崩壊という言葉に明確な定義があるわけではなく、多くの場合、『必要な人に必要なタイミングで、必要な医療を提供できない状態が継続すること』をいいます。特に『第3波』と呼ばれる、新型コロナの感染拡大が見られる現在はコロナを起因とした医療提供体制の逼迫(ひっぱく)を指して、医療崩壊と表現することが多いのですが、コロナ禍以前より使われていた言葉です。

例えば、病院が経営上の理由などによって縮小したり、閉院したりすることによる影響で、その地域で救急搬送先が決まらず、隣接地域に搬送されたり、入院患者の受け入れが難しくなったりすることがあり、そうした状況について危機意識を持って、医療崩壊という言葉で表現することもありました」

Q.新型コロナ陽性判明者の入院・療養先が見つからなかったり、新型コロナ以外も含む急患の搬送先が見つからなかったりする状況は医療崩壊ではないのでしょうか。

森さん「『崩壊』という表現が適切かどうかは判断しかねますが、『医療の非常事態』であることは確かだと思います。新型コロナの患者、特に重症患者の治療には通常より多くの医師や看護師の配置が必要なため、一部の病院では一般医療の新規患者の外来や入院を制限したり、救急の受け入れを制限したり、手術や検査を延期したりしています。

また、病院で集団感染が発生し、拡大した場合に多数の入院患者の転院が必要となり、近隣を含む地域の病床が逼迫するというケースも起きています。さらに、新型コロナに対応する病床が大幅に不足している地域では、一般病床を削減してコロナ病床を増床する病院もあります。

こうした状況は、例えば、がん、心臓病、脳卒中など迅速な治療が必要な患者、症状が安定しているものの療養が必要な患者、終末期の患者、分娩(ぶんべん)を予定している妊婦なども含め、広い範囲で医療現場に深刻な影響を及ぼしていて、まさに医療の非常事態であり、一部の病院では、医療崩壊ともいえる状況が始まっているのが現実です」

Q.医療崩壊していると考えられるのは東京都内だけでしょうか。あるいは他地域もでしょうか。

森さん「確かに、東京都の新規感染者数は1000人台、あるいは2000人を超える日もあり、他地域より桁違いに多い状況が続き、入院調整が困難になっています。都はコロナ病床を確保するために3つの都立病院を実質的な『コロナ専門病院』とする方針を明らかにし、通院や入院をしている患者と地域への影響は相当なものだと考えられます。また、現在、救急患者の搬送先が見つからなかったり、時間がかかったりするケースも急増しています。こうした状況は東京に限らず、緊急事態宣言が発出されている地域では同じような傾向といえます。

一方、重症患者や重症化リスクが高い新型コロナ患者を受け入れて治療できる病院が多くない地域では、感染者数がそれほど多くなくても、感染拡大のスピードが速まることで医療提供体制が非常に逼迫します。例えば、昨年12月に北海道旭川市で、病院での大規模なクラスター発生が続きました。クラスターが発生した病院から転院が必要な患者が多数出て、急速に旭川市内のコロナ病床が逼迫するとともに、地域医療の中心を担う病院の機能が制限されるという事態となりました。

このように、今後感染が急速に拡大すれば、どの地域でも必要な医療を提供できなくなる事態となりかねない状況です」

Q.医療崩壊を招いた原因は何でしょうか。

森さん「感染が急速に拡大したことが最も大きな原因です。昨年11月には全国的に新規感染者が増加し、幾度も警戒が呼びかけられてきましたが、『GoToキャンペーン』の後押しでにぎわいが戻った首都圏の繁華街の人出は減らず、年末年始の会食も期待したほどは自粛されませんでした。自粛を呼びかけた菅義偉首相自らが会食に出席したり、国民に帰省自粛を求める一方で海外との往来の制限を緩めたりするなど、国の姿勢からは医療現場の危機感が国民にうまく伝わらなかったことも感染拡大に影響していると考えられます。

また、日本の医療システムが高齢化に伴って、生活習慣病への対応を中心につくり上げられてきており、今回のような、新しい感染症による『有事』を想定していなかったことも理由の一つとして挙げられます。コロナ禍以前(平時)の急性期病院(救急医療や重症患者の治療なども担う病院)は診療実績で評価され、細分化された専門領域を診療することが病院の特長となり、手術件数を増やし、病床を効率よく稼働させることで経営の安定を目指してきました。

長年、そのような方針で、医師、看護師、薬剤師、臨床検査技師をはじめとする医療専門職、医療事務を配置し、院内の動線をつくってきた病院がこれまで同様の医療を提供しながら、同時に新しい感染症に対応することが、病院運営の面において非常に難しかったという結果が病床不足の原因の一つと考えられます」

Q.日本の医療体制が完全に崩壊することを防ぐため、私たちができることややるべきこと、国などがすべきことを教えてください。

森さん「まずは私たちの行動で感染拡大を食い止める必要があります。マスクの着用、手洗いや手指消毒、小まめな換気、人と人との間隔を開けるなど『3密』を避けるといった基本的な感染予防対策に加え、現在、緊急事態宣言が発令されている都府県では、不要不急の外出を控えることや積極的なリモートワークなどで、人との接触機会をさらに減らす努力が求められています。新規感染者を減らすことが医療崩壊を防ぎます。

一方、国や自治体は支援金の拡充などで医療のキャパシティーを増やす努力とともに、介護施設や介護事業者、医療機関に対する感染防止のための支援が重要です。高齢者や基礎疾患を持つ人が多い施設でのクラスター発生は重症化リスクが高い人の感染を一気に増やすことにつながるため、病床を圧迫します。こうした施設に対して、PCR検査の無償実施や感染防止資材の無償配布など、さまざまな支援を拡充する必要があると思います」

(オトナンサー編集部)

森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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