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「買い手市場」で焦る就活生の落とし穴【就活・転職の常識を疑え】

就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

就活の「落とし穴」とは?
就活の「落とし穴」とは?

 リクルートワークス研究所の最新の調査によると、2021年3月卒業予定の新卒採用での求人倍率は1.53倍と、リーマン・ショックの翌年、2009年の調査時に近いレベルまで下落しました。それを受けて、マスコミは企業側が強い「買い手市場」になってきたと強調しています。2022年3月卒業予定で就職活動をしている学生の皆さんは不安で仕方がないのではないでしょうか。そんな人たちへ、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者からのアドバイスです。

本当に「買い手市場」?

 求人倍率が下落したというものの、中身をよく見てみると、300人未満の中小企業においては3.4倍とまだまだ「売り手市場」ですし、日本経済新聞の調査によると、大手企業の採用者数は前年比11%減、つまり、9割程度でそこまで減ってはいません。そう考えると「未曽有の大不況で就職氷河期だ!」などとは言えない気がします。それでも、学生の不安心理は相当なものです。2022年卒業予定の学生と話す機会がよくありますが皆さん、「ちゃんと就職できるのだろうか」と危機感を募らせています。

 かつて、リーマン・ショック後の数年間は学生が年間に受験する会社数は20~30社に上っていました。それが近年、コロナ禍までは平均10社に満たない状態でしたが、今の学生の心理状況を考えると、リーマン・ショック後と同じぐらいに就職活動量が増えることが想定されます。実際、直近のインターンシップの応募が昨年の2~3倍になったという声をさまざまな企業で聞きます。就活生一人一人の就職活動量が増えたので、1社あたりの応募者が増えているということでしょう。

 つまり、学生が不安になって就職活動量を増やせば増やすほど競争倍率が上昇するので、結果として、なかなか受かりにくくなってしまうわけです。まさに「予言の自己成就」です。特に、一部の大手企業や有名企業は厳しいことになりそうです。

「売り手市場」のときですら、大手企業や有名企業の倍率は100倍ほどもありました。学生の就職活動量が2~3倍になり、それがそのまま反映されれば、数百倍の競争倍率になる会社も出てくるでしょう。そんな会社を何社も受けたところで、宝くじを買うようなもので、結局、全滅してしまうという学生が出てくるかもしれません。

増やした活動量を中小・ベンチャーにも

 では、どうすればよいのでしょうか。競争倍率が上がることはほぼ確実なわけですから、コロナ禍以前よりも活動量を増やさねばならないのは致し方ありません(それが結局、競争倍率を上げることになるとしても)。

 ただ、その増やした分の活動量をどこに向けるかがポイントです。大手企業や有名企業を受ける数を増やすだけだと、数百倍もの倍率の会社を受ける機会を2~3倍に増やしたところで、それほど合格確率は上がりません。そうではなく、いまだ「売り手市場」である中小企業やベンチャー企業にも最初から目を向けてはどうでしょうか。受かりやすい会社と受かりにくい会社をミックスして受けていくということです。

 先日、某有名私大のキャリアセンターの人が「この仕事に就いて初めて、中小企業やベンチャー企業の中にいろいろないい会社があると知った」とおっしゃっていました。知名度の低い中小・ベンチャー企業の中から、学生が自分で自分に合った企業を選び出すのは難しいかもしれませんが、このキャリアセンターの担当者のように、世の中をよく知っている「オトナ」に聞いてみてはどうでしょうか。

 あるいは、ゼミやクラブ、サークルのOB・OGで、人材業界や金融、広告、コンサルティングのような幅広い業界を顧客に持つ企業に勤めている人に相談してみるのもよいかもしれません。

 これだけなら、「受かりやすいところを受けよう」という何ということはないアドバイスですが、付け加えて言うなら、それを「最初から」視野に入れておくべきだということです。多くの人は最初は大手・有名企業を受けて、それが終わったら、中小・ベンチャーというように流れていきます。

 しかし、大手企業が終わった後では、優良な中小企業の採用は既に終わっていることも多いのが現実です。というのも、規模は小さくとも事業的・財務的に素晴らしい企業というのは、大手企業とも採用競争で引けを取らないので、遅く採用活動を始める必要はなく、普通に大手企業と同じペースで採用活動をしているからです。

安心感を持ってこそ、チャレンジができる

 ここまで述べてきたコロナ後の「買い手市場」での就職活動のコツをまとめると、就職活動の量を増やさないといけないのは確かに事実なのですが、増やした活動量の一部を、情勢をよく知っているオトナに相談しながら、多くの人が最初は狙わない中小・ベンチャーに振り向けていくことが大切だということです。大企業・有名企業ばかりを受けて、次々に落ちて、心が折れるということをしないようにしましょう。

 もちろん、どれだけ競争倍率が高くても、憧れている企業にチャレンジするのはよいことです。しかし、一方で、現実的に受かりやすい穴場の企業を先に受けておくことで安心感を持つことも重要です。その安心感がチャレンジを支えてくれるのです。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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