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就活で悩み、迷ったら…親に相談すべきか、やめるべきか【就活・転職の常識を疑え】

就活や転職のさまざまな「常識」について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

就活で「親に相談」は正解?
就活で「親に相談」は正解?

 就活で困ったことや迷うことがあったとき、親に相談するのは正解なのでしょうか、やめた方がよいのでしょうか。SNS上では「世代が違い、時代背景も違うのでやめた方がよい」という声もありますが、「自分を育ててくれた親の意見を大切にしたい」という人もいるでしょう。就活における「親への相談」の是非について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

就活に口を出すのが当たり前に

 採用側からみると、ここ数十年の少子化に伴ってか、学生の親御さんが就職活動に積極的にアドバイスをするケースが増えてきているように見えます。「親」の意見をきちんと「確」認しておくという意味の「オヤカク」という言葉もあるぐらいです。

 一人っ子も増えているので、息子や娘がどんな会社にどんな場所で就職するのかというのは、老後などを考えると気になるのも当然ですから、そのこと自体は何も問題はないと思います。「苦労をさせたくない」とか、「失敗させたくない」とか、大事な子どもの行く末が気になるというのも、筆者も一人の親として分かります。

 ただ、筆者もやってしまうかもしれませんが、いくら子どもが心配だからといって、「できるだけ、リスクの少ない安全策を取るようアドバイスする」ことが子どもの将来のキャリアの可能性を最大化するかというと、そうではないかもしれません。

 企業や団体の人事に携わる者であれば、誰でも知っているような有名なキャリア理論に、クランボルツという学者が提唱した「計画された偶発性理論」というものがあります。イケてるキャリアを歩んでいる人の特性の一つに「リスクテーク」=「冒険心」というものがあり、「安全策を取らない」で、「リスクのある方を選ぶ」人の方が成功しているというものです。

「危ない橋」を渡るメリット

 しかし、なぜ危ない橋を渡る方がよいのでしょうか。ここでの「危ない橋」は今にも崩れそうな危ない橋(それは誰にとっても危ない)ではなく、「みんながリスクを恐れて手を出さない」橋です。

 例えば、みんながあまり行こうとしない、受験しない会社を受けることとしましょう。そういう会社に行くことのメリットの一つは「競争相手が少ない」ことです。「鶏口牛後」という言葉がありますが、どんなに人気企業、有名企業に入っても、そこのビリでは大変つらい境遇になるでしょう。競争の少ない企業に入れば、チャンスが回ってくることも多く、成果を上げやすく、昇進もしやすい、そういうメリットがまずあります。

 また、会社や仕事の選び方次第ですが、少数の人しか受けない珍しい会社や仕事を選ぶと、そこには希少価値が生まれます。需給関係次第ではありますが、希少価値のある仕事を経験することは、もし一定の需要が出てくれば、それは即、市場価値に直結します。

 大企業に勤める人は労働人口の約3割で、1社当たり数千人、数万人という人数になり、そんな会社のOB・OGはそれこそごまんといます。一方、例えば、世界のさまざまな物の型を彫刻で作る会社があるのですが、そういう会社で働いている人はとても希少価値があります。

 もう一つ理由を挙げるとすれば、リスクの少ない安定企業は「勝ちパターン」が既に決まっていたり、特定の既得権益を得ていたり、参入障壁に守られていたりするものです。そういう企業は大変安定しており、収入面でも労働時間の面でも安楽な状態でいられるかもしれません。

 しかし、そういう会社の多くは良い意味でも悪い意味でも「停滞企業」でもあります。もちろん、実は変化することで安定を保っていて、「変わり続けているから、安定している」企業という可能性もありますが、それはかなり例外的な企業です。普通に意味を考えれば、「変わらなくてもよい」ことが「安定」です。死ぬまでそれでいければ安泰かもしれません。しかし、それは可能でしょうか。

親の意見は聞こう、ただし…

 さて、親御さんの意見が安全策に走りがちだということを指摘し、その際の「デメリット」ばかりを述べてしまいましたが、もちろんメリットもあります。それは親御さんが「あなたのことを一番、親身に考えてくれている」ことです。

 大学のキャリアセンターも人材紹介会社ももちろん、学生の皆さんのことを考えているのですが、「思いの深さ」において、親を超える人はなかなかいないでしょう。損得勘定抜きに親はアドバイスをしてくれます。ですから、就職活動の際に悩んだら、この記事で今まで述べてきたような「安全策に走りがちだ」ということを念頭に置きつつも、真剣にアドバイスを聞くべきだと思います。

 ただし、うのみにするのではありません。しっかりアドバイスを聞いた上で、それを取り入れるかどうかは、就活をしている当事者、あなた自身が決めるのです。つまり、この記事冒頭の疑問への回答は「親に相談するのは正解。アドバイスを聞くのも正解。でも、うのみにするのは不正解。親の意見を聞いた上で、あなた自身が決めるのが正解」ということになります。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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