食事でクチャクチャ音? 舌の位置が低い「低位舌」の原因・弊害・治療法
口の中でいろいろな役割がある「舌」が、常に口の中で低い位置にある「低位舌」の人がいます。どんな問題があるのでしょうか。

会話や飲食をするとき、口の中で大きな役割を果たす「舌」ですが、普段、特に意識していないときの舌はどの位置にあるでしょうか。本来は上顎にくっついているのが基本ですが、中には、舌が常に口の中で低い位置にある「低位舌(ていいぜつ)」の人も少なくないようです。
低位舌の場合、いわゆる「クチャラー」と呼ばれる、大きなそしゃく音を出す食べ方になりやすかったり、食べ物をのみ込む嚥下(えんげ)に支障があったりするなどの弊害があるといい、ネット上では「ずっと低位舌だったかも」「舌の位置が間違っているという自覚がなかった」「治せるの?」などの声が上がっています。
日常生活にさまざまな弊害をもたらす「低位舌」について、吉祥寺まさむねデンタルクリニック理事で歯科医師の園田茉莉子さんに聞きました。
誤嚥や歯ぎしりの原因にも

Q.そもそも、舌は口の中で、どのような役割を果たしているのでしょうか。
園田さん「舌には、食べ物をかんで食べる(そしゃく)、のみ込む(嚥下)、味を感じる(味覚)、発音する(構音)際に必要な機能が備わっています。
食べ物を口に入れると、舌はまず、食べ物の温度や硬さを感じ取ります。そして、かむ際、舌は上下の歯の間に食べ物を置くように動き、かむ瞬間には食べ物が落ちないように支えます。細かくなった食べ物は口の中にばらけるので、これを唾液と混ぜ合わせながらまとめ、また歯の上にのせてかめるようにします。細かくまとまると、今度はこれを舌が咽頭の方に送り込むことで、のみ込める(嚥下できる)ようになるのです。
味覚は舌や上顎などに存在する味蕾(みらい)という組織が感じますが、大部分は舌にあります。すなわち、舌こそが味を感じる主要な部分です。また、私たちが発声するとき、発した言葉は舌が口の中で動くことによって音になります。例えば、か行では舌の奥、た行では舌の前方、ら行では舌の先端が上顎と当たることで発音できるのです」
Q.何もしていないとき(無意識のとき)の、舌の「正しい位置」を教えてください。
園田さん「本来、何もしていないとき(安静時)には、舌はリラックスした状態で一定の場所に位置します。舌の先端は上の真ん中の前歯2本の間の裏側から1、2ミリ内側の歯茎に触れている状態で、舌全体も上顎に触れた状態が正しい位置となります。このとき、上下の歯は数ミリ離れているか、わずかに触れている状態が正常とされており、強くかんでいるのは異常です」
Q.低位舌とは、どのような状態のことですか。なぜ、低位舌になってしまうのでしょうか。
園田さん「低位舌とは、舌が本来の正しい位置よりも低い場所に置かれる状態をいいます。舌が上顎に触れず、上顎との間に空間ができ、下顎のくぼみにおさまっていることが多いです。
人間は授乳期、舌と上顎を使って母乳を飲みながら、正しい飲み込み方を覚えていきます。しかし、哺乳瓶など乳児が楽に飲める環境だと、こうした舌の動きが不要となり、正しい嚥下機能が得られず、低位舌の原因になると考えられています。わざと吸いにくくして、嚥下機能を妨げないようにデザインされている哺乳瓶もあるほどです。
他の原因では、幼児期の長期にわたる指しゃぶりが挙げられます。指しゃぶりによって前歯が正しい場所に生えず、上下の前歯がかみ合わないために隙間ができると、嚥下時に舌を入れ込む癖がつき、舌の筋力が低下する場合があります。また、『舌小帯(ぜつしょうたい)』と呼ばれる舌の裏側の筋が短いと、のみ込む際に舌を持ち上げられず、前歯の隙間に舌を入れ込んでしまう癖がつきやすいです。
そのほか、口周りや頬の筋力が弱いと、舌による外側への力に負けて歯並びが崩れ、前歯に隙間ができてしまうことがあります。また、鼻の病気などで鼻呼吸がしづらいと、口呼吸になりやすく、空気が通る道筋を確保するために自然と舌が低い位置に置かれるようになります。これが癖づくことで、慢性的な低位舌となるのです」
Q.低位舌によって起こり得る弊害とは。
園田さん「低位舌と関連性の深い口呼吸は恒常的に口が開いているので、食事時のクチャクチャ音が外に漏れやすくなることがあります。口呼吸は歯周病や口内の乾燥、口臭の原因になる上、寝ている間のいびきや睡眠時無呼吸症候群を引き起こしやすくなります。
低位舌で舌の筋力が低下すると、食事時のそしゃくや嚥下などの機能が落ちるため、誤嚥につながります。舌の筋力が落ちると滑舌も悪くなりますし、顎の下のたるみの原因にもなります。また、本来なら、安静時には触れ合わない上下の奥歯がかみ合わさりやすい状態となり、くいしばりや歯ぎしりなどが起こりやすくなります」
治療法や予防策は?
Q.自分が低位舌かどうかを判断する方法はありますか。ネット上では「自分で気付けるの?」「歯医者さんに診てもらわないとだめ?」などの声もあるようです。
園田さん「低位舌は自分でチェックできます。舌の縁が歯型でボコボコしている▽口が乾きやすい▽滑舌が悪くなった▽歯ぎしりや食いしばりがある▽鼻呼吸がしづらく、口呼吸をしている▽いびきをかきやすい▽家族に睡眠時の無呼吸を指摘された▽顎の下がたるんでいる――など一つでも自覚があるなら低位舌の可能性があります。しかし、別の原因でこれらの症状が起きている場合もあるので、確定診断には歯科医院の受診が必要です。
低位舌は舌の位置に問題があるというだけで、それがすぐに病気という判断にはなりませんが、セルフチェックをきっかけに病院を受診するなど、放置すると病気になる『未病』の段階で健康改善につなげることが大事です」
Q.低位舌を治すことは可能ですか。
園田さん「可能です。口の周りや舌の筋肉のトレーニングを行う『筋機能療法(MFT)』や矯正装置を使って、舌の位置を治す方法があります。筋機能療法では、口の周りや舌、唇などの筋力を鍛えるとともに、過度に緊張している筋肉をリラックスさせ、バランスのとれた状態をつくります。これによって、舌や唇は正しい位置に置かれ、上下の歯も安静時にはかみ合わず、2、3ミリの隙間が空いた適切な状態になります。
適切な筋力が歯にかかって、正しい歯並びになることで、かむときも適切な力が込められるようになります。また、飲み込む際に舌を上顎につけられるようになれば、食べ物を喉に送り込む機能や嚥下機能も改善されます。
矯正装置は装着することによって、舌を前に突き出せないようにします。舌のみに作用する装置なので、癖が取り除かれるまで使用します。正しい舌の位置になると、歯を押す力が取り除かれるので、歯並びが悪化しにくくなります」
Q.子どもの低位舌を予防するために、親が特に注意すべきこととは。
園田さん「低位舌は子どもの頃からの習慣によって起きるものですが、同様に正しい習慣も子どもの頃から身に付きます。先述の通り、幼児期の指しゃぶりは前歯の歯並びを悪くし、舌を突き出す癖がつきやすくなるため、5歳を前にやめさせるようにしましょう。舌の裏側の筋が短いお子さんは、筋に舌が引っ張られて動かす範囲が狭くなるため、舌の筋力もうまく上がらず、低位舌になりやすいです。この場合は、早めに歯科医院を受診する必要があります。
鼻呼吸を妨げる鼻の病気があると口呼吸になり、そこから、低位舌になることがあるので、早めに耳鼻咽喉科の受診をおすすめします」
(オトナンサー編集部)
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