父を20年間世話せず…親不孝な娘は「遺産」をもらえる?
亡くなった父の遺言に「財産は全て身の回りの世話をしてくれた人に」との内容が。父の面倒を見てこなかったとはいえ、一人娘である「私」は財産をもらえないのでしょうか。
法律の専門家である弁護士が、私たちの暮らしに身近な事象についてわかりやすく解説します。今回のテーマは「財産を赤の他人に渡すという父の遺言は覆らないのか」、取材に応じてくれたのはアディーレ法律事務所の岩沙好幸弁護士です。
「亡くなった父の遺言に『財産は全て身の回りの世話をしてくれたAさんに渡す』とありましたが、遺言は絶対に覆らないのでしょうか。確かに母が亡くなって20年近く、一人娘である私は父の面倒をほとんど見ませんでした。しかし、だからと言って、全ての財産が赤の他人の手に渡ってしまうのでしょうか」
最低限の取り分「遺留分」がある
Q.そもそも、遺言は何が書かれていても有効なのですか。
岩沙さん「遺言の残し方は、法律でしっかりと決まっています。形式としてはまず、書面に直筆で遺言内容と日付、氏名を書き、押印(認印可)しなければなりません(民法968条1項)。これに違反すれば無効です」(※亡くなった人が自分で作成する「自筆証書遺言」の場合。公正役場で作成してもらう「公正証書遺言」もある)
岩沙さん「遺言に財産の相続とは無関係な、『愛犬をかわいがれ』『兄弟仲良く暮らせ』といった単なるお願い事が書かれていても、その部分だけが遺言として効力がないだけで、遺言そのものは無効になりません。また、一般に『相続』は大きく2つに分かれます。『法律上の相続』と『遺贈』です。ざっくりというと、法律上相続権のある人(相続人)が受け取るのが法律上の相続、それ以外の友人や慈善団体などが受け取るのが遺贈です。遺贈も遺言の中で行うことができ、誰に遺贈するのも自由です。もちろん、遺贈を受ける側は辞退できます」
Q.「父」の遺言が有効であるとすれば「一人娘」は一銭ももらえないのでしょうか。
岩沙さん「一銭ももらえないことはありません。遺産を全くもらえないと生活に困ってしまう人もいるため、法律では最低限の取り分として『遺留分』という制度を設けています。たとえば、亡くなった父に総額1000万円の財産があり、先に母も亡くなっている場合、相続人は一人娘だけです。この場合の遺留分総額は、亡くなった人の財産の2分の1(民法1028条2号)で、1000万円の2分の1の500万円となります。遺留分総額を相続人で分けますが、相続人は一人なので500万円全額を遺留分として請求できます」
岩沙さん「また遺贈を受けるAさんが辞退した場合、その分は法定相続分に従って相続人で分けることになるため、1000万円全額が一人娘のものとなります。遺言が無効であった場合は、遺言がなかったことになるため、法定相続分通り1000万円全額が一人娘のものとなります」
Q.「Aさん」が内縁の妻だった場合、遺留分はどうなるのでしょうか。
岩沙さん「内縁の妻(法律上の妻ではないものの結婚する意思を持ち、事実上の結婚関係にある人)は相続人とはならないため、一人娘の遺留分は変わりません」
(オトナンサー編集部)
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