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子どもの「熱」に関する大きな誤解、高熱は病気が治りつつある証拠【ぼくの小児クリニックにようこそ】

千葉市で小児クリニックを構えている医師である著者が、子どもたちの病気を診てきた経験をつづります。

突然の高熱は心配だが…
突然の高熱は心配だが…

 今日、クリニックに来たお子さんは、1歳になったばかりの女の子です。顔を真っ赤にして、お母さんにしっかりと抱き付いています。

体が病気と闘っている証拠

「昨日の夜から高熱なんです。今は38度ですけど、深夜には39.5度もあったんです」

「熱以外はいかがですか?」

「おとといから鼻水が出ています」

 早速診察してみました。肺の音は正常です。喉を観察すると、お子さんは大声で泣き出しました。顔の表情もいいし、目の力もあります。これなら心配ないでしょう。

「発熱してまだ24時間もたっていないので、まだ分からない部分もありますが、お子さんは風邪による発熱でほぼ間違いないと思います。今のところ心配ないでしょう」

「こんなに高い熱が出ているのに、大丈夫なんでしょうか? 以前にインターネットで、小さな子が高熱を出した後に耳が聞こえなくなってしまったという記事を読んだことがあるんです」

「ああ、なるほど。それは恐らく風邪じゃなかったんですね。髄膜炎(ずいまくえん)などの重い病気だったんでしょう」

「40度近くも熱が出ていると、心配で眠れません」

「お母さん、熱って悪いものじゃありませんよ。病気が熱を出しているのではありません。お子さんが自分で熱を出しているんです」

 病原体が体内に侵入すると、免疫細胞が闘いを始めます。免疫細胞はこの闘いの様子を、情報伝達物質(サイトカイン)を通じて脳に伝えます。脳では、炎症性物質(プロスタグランジン)が作られ、脳の中の体温の設定温度が高められます。例えば、39.5度に設定温度が高まり、この時の実際の体温が36.5度とすると、3度のギャップが生じます。このギャップのために寒気を感じて、お子さんの機嫌が悪くなるわけです。

 やがて、お子さんの実際の体温が39.5度に上昇します。顔が火照って目も潤んだように見えますが、ギャップがなくなり、案外元気なようにも見えます。

 体温が高くなると、体内の免疫細胞や免疫物質が活発に働きます。すると、病原体はどんどん死んでいきます。通常、人間と病原体とのミクロの闘いは72時間(足かけ4日)続きます。72時間以内に病原体は全滅してしまうのです。そのため、解熱剤を使用するとかえって風邪に伴う発熱がやや長引くという科学的なデータもあります。一方、5日を超える熱は、人間が闘いに敗れつつあることを示唆しています。つまり、風邪などの病気がこじれている可能性があるということです。

 闘いが済むと、脳の中の体温設定温度は、先ほどの例でいえば36.5度に下げられます。すると、お子さんの体温は39.5度あるので、3度のギャップが生じます。お子さんは、暑苦しさを感じているはずです。このギャップによって、お子さんは汗をかきます。そして、体温は36.5度に落ち着きます。

 汗をかいたから解熱したのではなく、解熱したから汗をかいたのです。「厚着にして汗をかかせれば熱が下がる」という発想は完全に間違いです。熱がこもって危険ですからやめてください。熱の上がり始めで寒気を感じているときは、1枚服を着せたり、タオルケットを掛けてあげたりしてください。熱が上がり切って暑さを感じているときは1枚剥いでください。

 どう感じているかよく分からないときは、とりあえずタオルケットを1枚掛けてみます。払いのけるか、心地よさそうにしているかで、お子さんがちゃんと答えを教えてくれます。

 深夜にお子さんが高熱を出すと、お母さんは心配ですよね。それは分かります。でも、そのときに、熱によって病気が治っている最中なんだと想像を働かせてみてください。少し安心できますよ。

(小児外科医・作家 松永正訓)

松永正訓(まつなが・ただし)

小児外科医、作家

1961年東京都生まれ。1987年千葉大学医学部を卒業し、小児外科医となる。日本小児外科学会・会長特別表彰(1991年)など受賞歴多数。2006年より「松永クリニック小児科・小児外科」院長。「運命の子 トリソミー 短命という定めの男の子を授かった家族の物語」で2013年、第20回小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)などがある。

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