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健保連「花粉症薬を保険適用除外に」提言の背景とは 処方薬に“安さ”求める人が多い?

健康保険組合連合会が「花粉症治療薬の一部を保険適用から除外すべきだ」との提言を発表し、話題となっています。

健保連が「花粉症治療薬の一部を保険適用から除外すべきだ」と提言
健保連が「花粉症治療薬の一部を保険適用から除外すべきだ」と提言

 企業の健康保険組合でつくる健康保険組合連合会(健保連)が8月23日、「花粉症治療薬の一部を保険適用から除外すべきだ」との提言を発表し、話題になっています。市販の治療薬と同等の成分の薬が保険適用となっていることをやめれば、薬剤費の大幅な削減が見込めるという趣旨です。花粉症治療薬に限らず、湿布薬など市販薬でも「スイッチOTC」と呼ばれる、医療用と同等の薬があるのに「処方箋を書いてもらえば保険適用で安くなるから」と医療機関を受診する人の存在も議論になっています。

 今回の提言について、医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

「美容目的」の保湿剤処方も問題に

Q.医療用医薬品と同じ成分を持つ「スイッチOTC」とは。

森さん「薬(医薬品)は大きく2つに分類されます。医師が処方し、薬剤師が調剤してから受け取る『医療用医薬品』と、薬局やドラッグストアなどで処方箋がなくても買える薬です。後者を『OTC医薬品』と呼びます。『Over The Counter』の略で、薬局のカウンター越しに買うことができるという意味からきています。

スイッチOTCは、医療用からOTCへ転用された薬のことで、医療用医薬品として長い間使用された実績から、購入や使用をある程度自分で判断しても問題ないとされています。ただし、スイッチOTCは医療用医薬品と同じ有効成分を含むため、販売時に服用方法や副作用など薬剤師による指導が必要なものがほとんどです。一方、スイッチOTC化された医療用医薬品を『OTC類似薬』と呼びます」

Q.スイッチOTCがあるのは、主にどのような薬でしょうか。

森さん「主なものに、解熱鎮痛薬、H2ブロッカーという種類の胃薬、湿布や塗るタイプの外用鎮痛・消炎薬、花粉症などに用いるアレルギー用薬のほか、水虫薬、禁煙補助薬などもあります」

Q.医療用と変わらない市販薬があるのに、医師の処方箋をもらって保険適用で薬を買うことの問題点は。

森さん「市販薬(OTC)もあるのに医療用医薬品を求めること自体は、現在の日本の制度では問題ありません。しかし、患者からの要望に応じて、量や内容が適正とはいえない処方がなされているケースが一定程度あり、これは大きな問題です。

例えば、患者が湿布薬を必要以上の枚数もらっているという指摘があります。使い切れずに残った湿布薬の分は医療費の無駄となるため、2016年の診療報酬改定で、医師が記載する特別な理由がない限り、1処方あたりの湿布の枚数を70枚までと制限しました。

患者が『美容目的』で医療用保湿剤の処方を求めるケースがあることも問題になりました。こうした、適正とはいえない処方によって医療費が増加したり、本当に必要としている患者まで保険の適用とならなくなったりすることは、あってはならないことです。

『市販のものを買うより安いから』という理由で医療機関を受診して薬を求める人もいますが、薬剤費以外に、初診料や再診料、処方箋料などの医療費がかかるので単純比較はできません。医療機関に支払う自己負担額の合計がスイッチOTCより高額になる場合もあります。そして何より、医療機関を受診した場合、自己負担以外の部分も『自分自身を含む国民一人一人が納めた保険料や税金から賄われている』ことを忘れてはなりません」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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