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スマホに子守をさせて…悪印象もある「スマホ育児」、そのメリットや危うさとは?

「スマホは当然のものではない」

 私が取材したお母さんは、3歳と2歳の女の子の育児中で、家事で手が離せないときに子どもたちに動画アプリを使わせていました。幼児向けアニメが大好きなお子さんたちは動画に夢中で、お母さんからすれば家事がはかどり、ストレスも感じません。最初は「家事の間だけ」と思っていましたが、だんだん時間が増え、時には数時間もスマホを使わせるようになりました。

「途中でやめさせようとすると、2人そろって大泣きしたり、ギャーギャー騒いだりするんです。娘たちを言い聞かせるのが大変で…」と苦笑します。お母さんからすれば、「仕方なく」という心境かもしれませんが、こうした方法は避ける方が賢明です。では、一体何が問題なのでしょうか。

 一つは「時間」です。「家事の間だけ」といっても、日によって30分だったり1時間だったりとバラバラになりがちなもの。これでは子どもが混乱し、お母さんの方もルーズになりかねません。お子さんにスマホを使わせるときは、「時計の針が上まで来たらやめよう」などとあらかじめ時間設定をすることが大切です。利用目的や範囲も考えましょう。「今日は外遊びの代わりに使う」「第3話までアニメ動画を見る」といった具体的な意識を持ち、お子さんと約束をしてください。

 とはいえ実際の子育てでは、こうした約束がうまくいかないことも少なくありません。そうした場面では、単に「やめなさい」と言うのではなく、「やめるように仕向ける」ことが大切です。例えば「次はシャボン玉で遊ぼうか」「ママのお手伝いをお願い」など、別の行動を促します。要は、スマホに夢中になっている子どもの「意識を変える」のです。

 何より大切なのは、子どもに「スマホは当然のものではない」という意識を持たせることです。そのためには、時間や目的、意識の切り替え、親子のコミュニケーションなどが求められます。特に親子のコミュニケーションはおすすめです。例えば、絵本アプリの朗読機能では、いつも同じ音声が同じ調子で流れます。一方で、お母さんがお子さんに読み聞かせをするときは、毎回調子が違ってきます。早口になったり、疲れた声になったり、急に笑ったり。いわばお母さんの「リアル」が反映されるわけです。

主体性を持って使おう

 今、私たちは効率性や快適性を求める社会に生きています。もっと早く、簡単に、便利に…そうした風潮は当然ながら子育て中の親にも影響し、「いかに効率よく、子育てや家事、仕事をこなしていくか」という意識が強くあります。「子どもにスマホを与えればおとなしくなる」「その間に自分は家事や仕事を片付けたい」と思うのは無理からぬことで、一方的に「スマホ育児は悪」と決め付けるのは短絡的ともいえるでしょう。

 社会の環境が「子育てに冷たい」「子育てに不都合」という面も考える必要があります。ボール遊びや飲食を禁止する公園、子どもの声を「騒音」だと敬遠する地域、子どもを狙った犯罪や不審者の出現なども増えています。昔のように「子どもは風の子、外で遊ばせろ」というのは、現実を無視した理想論ともいえるのです。

 こうした背景から、仕方なく子どもにスマホを使わせているという親も少なくありません。また先述のようなスマホを利用するメリットや、スマホが私たちの日常のツールになっているという現状もあるわけです。大切なのは「スマホという便利な機器とどう付き合っていくか」「子育ての中で何に注意しながら利用するか」という現実的な視点を持つことではないでしょうか。

 親子ともスマホに振り回されるのではなく、自分でスマホ利用をコントロールできる力を持ちましょう。「スマホがあるから使う」ではなく、「自分はスマホをどう使いたいのか」という主体性を持ってください。

 自分の人生を守るためにも、自分で考え、判断できる力を養うこと。リアルの触れ合いや多様な経験を積んでいくこと。スマホに振り回されない子育てをするために、そして、子どもをスマホ漬けにさせないために、できることはたくさんあると思います。

(文/構成・オトナンサー編集部)

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石川結貴(いしかわ・ゆうき)

ジャーナリスト

家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに豊富な取材実績を持つ。ネット、スマホの利便性の背後にある問題に追った著書「スマホ廃人」(文春新書)は、国公立大学入試問題に採用されている。2020年から共同通信社の配信により、全国の地方新聞で「スマホ世代の子どもたち~大人の知らない最新事情」を連載。テレビ出演や全国各地での講演会など幅広く活動する。その他の著書は「子どもとスマホ」(花伝社)「ルポ 居所不明児童」(筑摩書房)など多数。

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