ネガティブな印象の見守りカメラ 実は保育士にもメリットあり? 真相を専門家に聞く
不適切な保育の防止のため、保育園内にカメラを設置することは、ネガティブに捉えられがちですが、実は保育士にもメリットがあるそうです。どのようなメリットでしょうか。

静岡県沼津市の保育園で昨年、所長と一部の保育士が0歳児のほおを引っ張って面白がったり、水性ペンで1歳児の顔に落書きしたりするなど、不適切な保育が今年1月21日に明らかになりました。不適切な保育が起きるたびに、「園内にカメラを設置すべき」という意見が出ますが、働いている様子をカメラで見られたり録画されたりするのは、撮られる側からするとネガティブな印象を抱くでしょう。しかし、“見守りカメラ”を設置することで、保育士や幼稚園教諭にもメリットがあるという意見もあります。どのようなメリットがあるのでしょうか。児童虐待を長年取材しているジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。
業務や精神的な負担軽減に
Q.保育園の場合、「カメラの設置は、保育士にもメリットがある」とも聞きます。保育士にどのようなメリットがありますか。
石川さん「例えば、園児のけがです。保育の現場では、子ども同士が出合い頭にぶつかったり、走って転びけがをしたりすることがよくあります。その際、保護者は子どもがけがをした原因を知りたいと思いますし、保育園も説明しないといけません。
しかし、現場に保育士がたまたまいなかった、他の園児の世話をしていてたまたま見ていなかったというケースもあります。カメラの映像があれば、状況が可視化され、『けがは避けられなかった』『偶発的にトラブルが起きてしまった』というような説明がしやすくなります。
不適切な保育が問題になると、保護者は『わが子が通う保育園は大丈夫か』と疑いの目を持ちます。そのため、映像をもとにした状況説明ができれば、保育士の業務や精神的な負担軽減にもつながるので、大きなメリットだと思います」
Q.保育士に大きなメリットがあるのに、カメラを設置することが広がっていないように思います。なぜでしょうか。
石川さん「保育園の経営側が、カメラで撮影した映像をどのように活用するのか、方針をきちんと示さないことが多く、保育士の賛同を得られていないからです。
そもそも、これまで『保育の現場にカメラを設置するのはなじまない』という空気感がありました。そうした空気感があったため、経営側は、カメラの映像を具体的にどのように活用していけばよいのか分からず、保育士にうまく説明できていないのだと思います」
Q.他にも、カメラの設置が広まらない理由があるのでしょうか。
石川さん「1つ目は、費用の問題です。仮に、園内にカメラを設置する場合、全ての教室や廊下、遊具があり最も園児がけがをしやすい園庭にも必要です。設置するための費用負担も大きいです。
2つ目は、園児のプライバシーの問題です。撮影した映像には、例えば、保育士が園児の名前を呼ぶ声が入るなど、園児のプライバシーが記録されることもあります。
また、保護者がIDやパスワードを入力し、カメラのライブ映像を自分のスマホから見られる保育園もありますが、保護者の誰かがその映像を保存して、SNSにアップすることも考えられます。
もちろん、保育園側は、そういう行為は一切やらないように注意しています。しかし、最終的には保護者の倫理観に頼ることになるため、絶対に映像が第三者に渡らないという保証はありません」
Q.現在、カメラを設置している保育園は、プライバシー保護の問題をクリアできたということですか。
石川さん「クリアできたというよりも、逆に“売り”にしているから、カメラを設置できているというのが現状です。映像の外部流出が怖くて、カメラの設置を懸念する保護者がいる一方、子どもが保育園で日々どのように過ごしているのか、映像で知りたいと考える保護者もいます。
そのような保護者のため、募集の際に『子どもの様子を見られる』とアピールし、他の保育園と差異化する戦略を取っています。子どもの様子を見たいという保護者が集まるので、プライバシー保護の問題が大きな懸念となりにくいのです」
Q.保育園にカメラを設置することに、どのような見解をお持ちですか。
石川さん「カメラさえ設置すれば、不適切な保育など、いろいろな問題も解決して、万事うまくいくというものではありません。ただ、私は、カメラを設置する方向に進んだ方が、デメリットよりもメリットの方が大きいと思います。もちろん、情報流出の対策や映像管理はしっかりと行うことが前提です。
保育士が、園児の様子について、文字だけの連絡帳で保護者とやりとりするのでは、様子が伝わりにくいこともあると思います。映像があった方が、伝わりやすいというのも事実です。
また、保育園側が、日々、保育の内容を充実させるため、努力しているところも多いです。そのアピールのためにも、園内を撮影した映像をポジティブに使ってもよいのではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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