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「鬼滅の刃」強要し、相手の好みを否定する「キメハラ」はなぜ起こる?

アニメ映画「鬼滅の刃」が話題となる中、まだ鑑賞していない人に「見ようよ」と自分の価値観を押し付けたり、「鬼滅がダメな人っているんだ」と相手の好みを否定したりするなどの行為、いわゆる「キメハラ」が問題となりました。なぜ、「キメハラ」が起きるのでしょうか。

スキーヤーも「鬼滅の刃」コスプレ(2020年10月、時事)
スキーヤーも「鬼滅の刃」コスプレ(2020年10月、時事)

 アニメ映画「鬼滅(きめつ)の刃(やいば)」が話題となる中、「キメハラ」という言葉が生まれています。「『鬼滅の刃』ハラスメント」を略した言葉で、映画を見ていない人に(1)「まだ見てないの? 見ようよ」と自分の考えを押し付ける(2)「鬼滅がダメな人っているんだ」と相手の好みを否定する(3)「鬼滅がつまらない、興味ない」と言えない雰囲気をつくる――ことなどを指します。

 職場などで、キメハラを受けた人もいるようで、ネット上では「知らない人や興味がない人はつらい」「ブームが終わってほしい」などの意見が上がっています。なぜ、キメハラは起きるのでしょうか。また、もし、子どもがキメハラに遭った場合、どう対処すればいいのでしょうか。インターネット問題に詳しい、ジャーナリストの石川結貴さんに聞きました。

押し付けの背景に「善意」

Q.そもそも、キメハラのように自分の価値観を強要したり、相手を否定したりする人がいるのはなぜでしょうか。

石川さん「意外かもしれませんが、自分の価値観を他人に押しつける背景に『善意』があることが少なくありません。『自分が感動したり、喜べたりしたことを他の誰かにも体験してほしい。そうすれば、その人も自分と同じように幸せになれるはずだ』と考えます。つまり、他人から見れば『押し付け』でも、当人にとっては『よかれと思って、やっている行為』なのです。

仮に、相手が自分の意見や考えに同調してくれたとしましょう。すると、自分の善意が他者によって肯定されることになり、確かな自己満足を得ます。相手から、『あなたの言ったとおりにしてよかった』などと感謝されれば、なおのこと満足度が高まります。こうして、自分に同調してくれる人が増えれば増えるほど『善意の正しさ』が証明され、自己満足や自己肯定を得られるため、かえって自分の『押し付け』を疑えなくなるのです。

反対に、相手が同調してくれないと、せっかくの善意が無駄になるだけでなく、満足感も得られません。『あなたのためを思ってしたこと(言ったこと)』が通じなければ、落胆や失望を感じ、自分との共通点を失うような気持ちになります。『こんなに感動することをやらないなんておかしい』『自分がすすめたことに従わないなんて許せない』という怒りが生じてくることもあるでしょう。善意で行動した自分はあくまでも『正しい』ので『それを受け入れない相手が悪い』と考えるようになります。

相手を否定したり、責めたりすることで自分の正当性を強化したり、『○○をやらない人はダメな人』と見下して、自分のプライドを保ったりしがちです」

Q.キメハラのようなケースが表面化したのはやはり、ネットやスマホが普及した影響もあるのでしょうか。

石川さん「キメハラのような行為は新しい現象ではありません。もともと、日本社会は『ムラ意識』が強く、『よそ者を排除する』『ムラのおきてに従う』という空気感が強いからです。近年でも『一億総活躍』という政治スローガンがありました。個々の事情を考慮することなく、『みんなで頑張ることが当然』などと一方的に決め付けるのは、会社や地域の集団でも見られます。そのため、一致団結するという社会風土は根強く、それに従わない人や異を唱える人は『おかしい』と批判されがちでした。

こうした社会的な価値観がネットやスマホの普及とともに拡大している可能性はあるでしょう。SNSなど自分の意見を言いやすい環境が充実し、さらに、同じような考えを持つ人同士がつながりやすくなったことで、より過激な『ムラ意識』がつくられているともいえます。

特に、SNSでは『エコーチェンバー現象』という問題が指摘されています。本来、エコーチェンバーとは、閉ざされた室内で発した声が『こだま』のように重なって聞こえる音響効果のことですが、SNSでは、自分に同調する人と閉鎖的な交流を繰り返すうちに、その考えだけが『正しい』と思い込むことを意味します。

例えば、災害が起きたとき、SNSではデマ情報が拡散しがちです。客観的には怪しくても、デマを肯定する意見ばかりに接するといかにも真実だと思えてきます。否定や反論を『隠ぺい工作』と捉え、『本当のことが隠されているのだから、やはり、自分たちの方が正しい』と思考が強化されるのです。

信頼性を疑わず、『うわさ話』の閲覧や検索を続けることも多いでしょう。すると、『あなたにオススメ』のように個人の指向に合わせた情報が集まりやすくなります。その結果、ますます主観に偏ったり、同調意識をあおったりするような行為につながりやすいのです」

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石川結貴(いしかわ・ゆうき)

ジャーナリスト

家族・教育問題、児童虐待、青少年のインターネット利用などをテーマに豊富な取材実績を持つ。ネット、スマホの利便性の背後にある問題に追った著書「スマホ廃人」(文春新書)は、国公立大学入試問題に採用されている。2020年から共同通信社の配信により、全国の地方新聞で「スマホ世代の子どもたち~大人の知らない最新事情」を連載。テレビ出演や全国各地での講演会など幅広く活動する。その他の著書は「子どもとスマホ」(花伝社)「ルポ 居所不明児童」(筑摩書房)など多数。

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