マラソン元日本代表の万引事件で注目 窃盗を繰り返してしまう「クレプトマニア」とは
衝動的に万引などの窃盗を繰り返す精神疾患「クレプトマニア」とは、どのような疾患なのでしょうか。
執行猶予中に菓子などを万引した罪に問われた女子マラソン元日本代表の原裕美子被告(36)に12月3日、執行猶予付きの有罪判決が言い渡されました。原被告は衝動的に万引を繰り返す精神疾患「クレプトマニア(窃盗症)」と診断され、入院治療を受けたものの、また万引をするようになり、万引をやめるためにわざと捕まったこともあるそうです。
クレプトマニアとは、どのような病気なのでしょうか。症状や治療法について、YSこころのクリニック院長で精神科医の宮島賢也さんに聞きました。
窃盗の緊張感と解放感を好む
Q.クレプトマニアとはどのような病気で、どのような症状があると、診断されるのでしょうか。
宮島さん「クレプトマニアとは、窃盗症とも呼ばれ、利益目的の窃盗ではなく、窃盗を行うときの緊張感と窃盗後の解放感という、精神的な起伏を好み、窃盗を繰り返してしまう精神障害です。
金銭的価値のためでなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返され、窃盗に及ぶ直前に緊張の高まりがあり、窃盗を犯すときに快感や満足、解放感を感じるという症状があれば、クレプトマニアと診断されます」
Q.原因は何でしょうか。
宮島さん「心の奥に、何か満たされないという不足感が内在している、基本的には『愛情の不足感』が原因と考えられます。
子どもの頃、親子関係の中で、満たされない思いや愛されていない思いを抱えつつ、ふたをしながら生きていくと、満たされない心が生じてきます(根本原因)。満たされない心で、周りから愛されているという思いが感じられないとき、孤独を感じるとき(環境原因)、起きるものです」
Q.どのような人がなりやすいのでしょうか。
宮島さん「特に、幼少時における両親からの愛の不足感がある人で、生活環境において人間関係のストレスを抱えている人がなりやすいといえるでしょう」
Q.日本では何人くらい患者がいますか。
宮島さん「クレプトマニアは、万引で逮捕された人の約4~24%に見られます。一般人口における有病率は非常にまれで約0.3~0.6%です。女性の患者が男性より多く、3対1の比率です。日本の人口が1億2700万人だとすれば、推定38万から76万人となります」
Q.治療法は。
宮島さん「精神科治療では、対症療法としてSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬や電気けいれん療法が有効だったとの報告があります。再発予防のために、認知行動療法や、患者同士の自助グループにおける対話の中で孤独を癒やす、という方法を採用している医療機関もあります」
Q.今回、原被告は入院治療を受けたものの、再び万引をしてしまったといいます。再発しやすい病気なのでしょうか。
宮島さん「満たされない心(根本原因)は、薬物療法や頭で変えようとしても満たされるものでなく、環境原因(孤独感、孤立、ストレス)により再発につながります」
Q.クレプトマニアの患者に対し、周囲はどのように接すればよいのでしょうか。
宮島さん「罪を責めたり、縁を切ったりして患者が孤立していくと、症状が起きやすくなります。『愛してほしい』『認めてほしい』『分かってほしい』という患者の思いに応えて、積極的に声をかけたり、関わったりすることで、患者の満たされない心を愛情で満たしていくことが重要です」
(オトナンサー編集部)
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