注目のがん免疫療法 専門家は「有効なものはわずか」と警鐘、オプジーボも万能でない
オプジーボにも過度の期待は禁物

効果の実証がない多くの「広義の免疫療法」とは異なる、本庶さんらが開発した新薬「オプジーボ」を使ったがん治療ですが、「過度の期待は禁物」と若尾さんは解説します。
Q.オプジーボなどを含む薬物療法と、外科治療、放射線治療との違いを教えてください。
若尾さん「外科治療と放射線治療は部分的ながんには向きますが、すでに転移したがんや、全身に散らばったがんには向きません。一方、薬物療法は全身療法です。点滴や飲み薬で体に入れて、血液の中に入って全身を回りますので、狙いを定める必要がありません。転移があっても効果が期待できる可能性があります」
Q.オプジーボと抗がん剤との違いは。
若尾さん「抗がん剤は直接がん細胞に障害を与えますが、オブジーボでは、免疫細胞のブレーキを外すことで、免疫細胞ががん細胞を攻撃できるように作用しています。また、抗がん剤は、効果があってもずっと飲み続けなければなりませんが、オプジーボは、ある程度飲んだ後、やめても効果が持続すると言われています。
ただ、どこでやめていいかはまだ分かっておらず、これから探っていかなければなりません。また、抗がん剤は、白血球減少や肝臓、腎臓の障害といった副作用があります。髪の毛が抜けることもよく知られていますね」
Q.オプジーボに副作用はないのですか。
若尾さん「あります。抗がん剤のような副作用はないのですが、免疫細胞のブレーキを外すことで、正常な細胞も攻撃してしまい、新たな副作用がありえます。肺や肝臓の障害という重い副作用が出て、間質性肺炎で亡くなった人もおられます。従って、想定される副作用をチェックしながら対応できる、薬物療法に熟練した医師、医療機関で投与を受けることが大切です。
医療機関選びは大切で、『オプジーボを使った最新治療』と強調しながら、使用量が極端に少なかったり、広義の免疫療法と組み合わせたりしている場合もあります。量が少ないと副作用も少ないのですが、結局効かないわけです。薬はそれなりの血中濃度を保たないと効果が出ないのですが、『オプジーボだから』というだけで、飛びつくことのないように注意が必要です」
Q.それでも、自分の体の力を使うという意味では「夢の治療法」なのでは。
若尾さん「誰にでも効くのではなく、今のところ、2~3割の人にしか効かないのが現実です。ブレーキを外すことで、免疫細胞が攻撃をする人には有効ですが、ブレーキを外しても攻撃する力がもともと弱く、効かない人もいるようです。しかも、効く人と効かない人が投与前に区別できないのです。その検査法が見つかっていない。いかに識別するかが、現在の大きな研究課題の一つです。
また、『効く』というのは、がんが小さくなって延命効果や症状の緩和が期待できるということで、完全に消えるわけではないということも知っておくべきでしょう。さらに、現在、保険診療が認められているのは、皮膚がんや肺がんの一種、胃がんなどに限られています。臨床試験が進めば、大腸がんなど他のがんにも広がっていくと思われますが、今後の課題です。
ちなみに、オプジーボの価格の高さは、最初に保険適用が認められたのが悪性黒色腫、つまり、ほくろのがんだったためです。このがんは、日本での患者さんが非常に少なく、莫大な開発コストを少ない患者さんを対象にして賄う想定で当初、非常に高く価格が設定されたのです。現在は対象となるがんが増えたこともあり、ある程度価格が下げられました」
Q.今回のノーベル賞受賞について感想をお願いします。また、今後のがん治療に与える影響は。
若尾さん「本庶先生の研究は素晴らしいもので、医療を変えました。いつかはノーベル賞を取るだろうと皆が言っていました。新しい治療法が脚光を浴びることは、良いことだと思います。受賞を機に、さらに研究や臨床試験が進めば、対象となるがんのさらなる広がりも期待できるでしょう。
一方で、本庶先生たちの免疫療法が注目されることで、あまり知識や経験がないのに『うちのクリニックは免疫療法やっています』というところが増えないか心配です。オプジーボが発売された時も同じようなことが起きましたが、今回はさらに注目されているので、注意してほしいです。
全国約400の拠点病院に『がん相談支援センター』があり、無料で相談できますので、正しい情報を得てから治療法などを判断してください」
がん相談支援センターは「国立がん研究センターがん情報サービス病院を探す」(https://hospdb.ganjoho.jp/kyoten/)で検索するか、がん情報サービスサポートセンター(0570-02-3410、平日午前10時~午後3時)で案内しています。がん免疫療法の分かりやすい説明は「がん情報サービス」(https://ganjoho.jp)内の「免疫療法 まず、知っておきたいこと」などで見ることができます
(報道チーム)
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