「生成AIが思考力を低下」の言説から見える“問題点” 大学教員の見解
「生成AIが思考力を下げる」は思い込み
生成AIはちょっとした質問でもそれなりの答えを返してくれますが、本当に自分が欲しい答えを引き出すには、生成AIとの対話を繰り返し、「どうすれば望んだ答えを出してくれるだろう」「うまく伝わらないのはなぜだろう」と試行錯誤する必要があります。
そして、この試行錯誤を踏まえ、「自分がしてほしいこと」を具体的にかつ的確に表現する高い文章作成能力が求められます。
これに対して、生成AI以前からあったウェブサイトのほか、YouTubeなどの動画サイトは、コンテンツを受動的に読んだり視聴したりするだけです。
コンテンツにたどり着くために適切な検索用語を考える必要はありますが、最近は検索システムがユーザーの嗜好(しこう)を学習して、お勧めの情報や動画をいくつか提示してくれるため、ユーザーは何も考えず、出された情報や動画の中から面白そうなものを選べばよいだけになりつつあります。
生成AIと従来のウェブサイトや動画サイトを比較した場合、どちらがどのように思考力に影響を及ぼすかは、言うまでもないでしょう。
このように考えてみると、情報の丸写しやうのみといった「依存」がなければ、生成AIの使用によって思考力が下がる懸念は、あまりないように思います。また、情報の丸写しやうのみが思考力を下げるのは、生成AI以外のツールにも当てはまる問題です。それにもかかわらず、なぜ世間では、「生成AIが思考力を下げる」という言説に満ちているのでしょうか。
生成AIの利用者は日々増えていると思いますが、ネット上などで公開されている複数の調査を総合すると、私がこの原稿を書いている時点で、生成AIを「お試しレベル」ではなく、日常的に使っている人は、多めに見積もって10%前後だと思われます。
一方で「生成AIをどう思うか」という調査は、社会全体を対象としているものが多く、「思考力が下がる」をはじめとした懸念は、生成AIを使ったことがない90%の人の回答が反映されている可能性があります。
思考力が低下しているのは生成AIを使わない大人?
人間は元来変化を嫌う生き物で、「怖い」と思う気持ちを分解すると、対象そのものの「恐ろしさ」だけではなく、「未知性」という成分が含まれることが分かっています。そのため、「未知性」が高い新しいテクノロジーは、最初は人々から拒絶される運命なのです。
しかし、生成AIを使い込んでいる人、つまり既に生成AIに未知性をあまり感じていない人は、「生成AIが思考力を下げる」とは言っていないようです。
これらを踏まえると、思考力が低下しているのは、生成AIを使いもせずに他者の言動をうのみにして「生成AIは思考力を下げるものだ」と思い込んでいる大人の方なのかもしれません。
大人はもっと考える必要があります。生成AIはこれまで人間にしかできなかったことの一部を自動化するものですから、冒頭の表計算の例のように、今後人間に求められる能力を大きく変える可能性があります。
生成AIは、よく夏休みの宿題とセットで議論されます。子どもに宿題や課題を課す理由は、「その課題を通して育つ能力を身に付けてほしいから」です。それなのに、多くの人は「子どもたちが、生成AIが出した情報の丸写しで課題を済ませてしまうこと」を懸念しているようです。
しかし、よく考えてみると、この懸念は少しずれているのかもしれません。なぜなら、「生成AIの情報の丸写しでできる課題」を通して育つ能力は、これからの社会では求められなくなる可能性が高いからです。
そうだとすれば、課題を課す側の大人は、「生成AIがある社会でも人間に求められる能力は何か」を考え、その能力が育つ課題を出さなければならないはずです。そして、そういう課題は、生成AIが出した情報の丸写しではできないので、「子どもが丸写ししたらどうしよう」と心配する必要はありません。
生成AIを使うことで「子どもが楽をし過ぎでバカになるんじゃないか」などと心配する前に、まずは大人が「生成AIは人類にどのような意味を持つのか」「これからの社会で必要とされる能力は何か」を必死で考えましょう。そのために、生成AIを使ったことがない大人は、とりあえず使ってみるべきです。
その上で感じたことや考えたこと、必要だと思ったことを、学校の先生だけに頼るのではなく、皆さんで子どもたちに伝えましょう。
登場まもない生成AIに関する意見は、大人の中でもまとまらず、子どもたちは混乱するかもしれません。しかし、そういうやり取りを通じて「世の中は多様であり、人や生成AIの言うことをうのみにできない。結局は自分で考えるしかない」ということを、子どもたちが学んでくれたら、それが最良の道なのかもしれません。
(近畿大学生物理工学部准教授 島崎敢)



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