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大学生が「バ畜」で留年&中退した どうなる? 大学教員が試算した経済的損失

大学生がアルバイトに夢中になるあまり、留年したり、中退したりした場合、経済的な損失はどの程度になるのでしょうか。事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う大学教員が試算しました。

大学生がアルバイトに熱中するあまり、単位を落とすケースも
大学生がアルバイトに熱中するあまり、単位を落とすケースも

 大学生の中には、お金をためるために、さまざまなアルバイトを掛け持ちする人がいますが、バイトに熱中するあまり、卒業に必要な単位を落としてしまうケースは珍しくないようです。近年は、学生がアルバイトでがむしゃらに働く状況を指す「バ畜」という言葉も登場しています。

 大学生がアルバイトに夢中になるあまり、留年したり、中退したりした場合、経済的な損失はどの程度になるのでしょうか。事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部・准教授の島崎敢さんが、試算します。

単位を落とすと数万円分の損失

 大学生の多くは卒業までの4年間に何らかのアルバイトを経験します。大学生の本分は学業とは言いますが、アルバイトは学業や友達付き合いと並び、学生時代の大切な経験なのかもしれません。

 アルバイトは、本格的に社会に出る前に職業経験ができる貴重な機会であり、大学の教室では学べない多くのことを学べます。また、経済的な事情から学費や生活費のためにアルバイトで稼ぎながら必死で勉強を頑張っている学生がいることも事実です。だから適切で必要な範囲内なら、アルバイトに反対するつもりはありません。

 一方、最近、インターネット上ではアルバイトに明け暮れる学生を指す「バ畜」という言葉が目立つようになりました。アルバイトのやり過ぎは、現在履修している科目の成績や単位だけではなく、将来的なキャリアにも悪影響を及ぼすかもしれません。

 目の前の時給1000円程度の収入を得るために、将来の収入が大きく目減りしてしまっては元も子もありません。だから、学業とアルバイトのバランスは慎重に検討すべき問題です。

 そこで今回は、アルバイト代や学費、将来の収入などをどう計算すれば良いのか、考え方のヒントを示したいと思います。

 大学の学費は決して安くありません。地域や学部などによって金額は異なりますが、文部科学省の調査によると、4年間の平均的な学費は国公立で250万円ほど、私立で470万円ほどかかります。初年度は入学金などを含んでいるため少し高くなりますが、2年目以降の学費の年額は国公立で60万円弱、私立で100万円程度となります。

 大学を卒業するには、124単位が必要です。学費には施設の利用料などさまざまな経費が含まれるため、実際はそんなに単純ではないのですが、ここでは話を簡単にするために、先述の学費を単位数で割ってみます。

 すると国公立の1単位は約2万円、私立の1単位は約3万8000円になります。講義型の授業は一般的に1コマ90分、半期15回の授業が2単位となっていて、実習やゼミなどについては4単位以上のものもあります。

 それぞれの授業の成績が100点満点で60点未満になったり、出席が3分の2以下になったりすると、単位をもらえません。当たり前ですが、遅刻や欠席、居眠り、課題提出の不備などが増えるほど成績が下がり、単位を落とすリスクが高まります。

 ちなみに1単位は45時間学習相当と決められています。だから2単位取るためには90時間勉強しなければならないのですが、「90分×15回」の授業時間は22時間半にしかなりません。残りの67時間半は予習復習で補うことになっているため、教員もそのつもりで課題などを出してきます。

 大学生の時間割はスカスカなので暇だと思っている人もいるようですが、空き時間もしっかり勉強しないと、良い成績は取れないのです。

 さて、夜中までアルバイトをして、朝の講義を1回休んだとしましょう。国公立なら約2700円分、私立なら約5100円分のコンテンツを聞き逃したことになります。さらにアルバイトに明け暮れて遅刻や欠席などが増え、単位(2単位)を落としてしまった場合、国公立で約4万円、私立で約7万6000円のマイナスです。

 そして、単位を落としている授業があるということは、他の授業の成績にも少なからず悪影響が出ているはずです。

 全体的な成績が落ちてくると、さまざまな不利益が生じます。在学中はゼミ選択などが希望通りにいかない場合があるほか、就職活動でも成績が悪いために条件の良い企業に就職できないかもしれません。仮に就職後の年収が10万円低くなれば、40年間で400万円の差が出てしまいます。

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島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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