家具固定だけでは不十分 「巨大地震」生き抜くのに必要な“10カ条” 専門家が解説
近い将来、発生が予想される南海トラフ地震など、巨大地震に対する必要な備えについて、リスク管理の専門家が解説します。

近年、日本列島で大きな地震が続いています。特に南海トラフ地震の震源域の西の端に当たる日向灘で8月8日、マグニチュード7.1の地震が発生したことに驚いた人は多いと思います。この地震により、南海トラフ地震の発生確率が通常よりも高まったとして、政府は同日、初めて「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)を発表し、1週間にわたって特別な防災対応をするよう、呼び掛けました。
事故防止や災害リスク軽減に関する心理的研究を行う、近畿大学生物理工学部・准教授の島崎敢さんは、8月の南海トラフ地震臨時情報の発表を機に、改めて南海トラフ地震など、巨大地震への十分な備えが必要だと主張します。具体的な備え方について、島崎さんが解説します。
南海トラフ地震は90〜150年の間隔で発生
「南海トラフ地震臨時情報」(巨大地震注意)が8月8日に発表されたときに、「南海トラフ地震がすぐに起きるのではないか」と不安を感じた人も多かったことでしょう。また、発表がお盆の前だったこともあり、観光業などへの経済的影響が大きく、1週間、何も起きなかったことに対して「空振り」といった批判も起きました。
後で理由を説明しますが、南海トラフ地震が近い将来に発生することは間違いないと言えるため、この出来事は南海トラフ地震の脅威を再認識する重要な機会だったと私は考えています。
南海トラフ地震は、その規模と影響範囲の広さから、日本が直面する最も深刻な自然災害です。そして、今生きている人の大部分が生きている間にほぼ確実にやってきます。そのため、この地震の特徴を正しく理解し、適切な備えをすることが極めて重要です。そこで、南海トラフ地震の特徴を知り、私たちにできる具体的な備えについて考えてみましょう。
南海トラフ地震は海溝型地震です。海のプレートは年間数センチの速度で常に動いており、日本列島の下に沈み込みながらひずみを蓄積しています。海溝型地震はプレート境界にたまったこのひずみのエネルギーが一気に解放されることで発生するので、一定期間を置いて「繰り返し」「必ず」発生するという特徴があります。
歴史上分かっている南海トラフ地震は90〜150年程度の間隔で発生しています。前回の南海トラフ地震は1944年(昭和東南海地震)と1946年(昭和南海地震)の2回に分けて発生していて、2024年までに約80年が経過しています。従って、すでにプレート境界には大きなエネルギーが蓄積されていると推測されます。
これらを踏まえれば、私たちは「南海トラフ地震は近い将来、必ず起きる」という前提で備える必要があるのです。残念ながら南海トラフ地震が起きることは避けられませんが、必ず起きることが分かっているなら「しっかり備えをしておけば被害を軽減できるのだ」と考えることもできます。
南海トラフ地震は、東日本大震災と同じメカニズムで起き、地震のエネルギー規模も同程度だと予測されています。しかし、死者数や被害総額などは、次のような理由から東日本大震災の10倍以上になると考えられています。
まず、東日本大震災は比較的人口の少ない地域で発生しましたが、南海トラフ地震は日本の人口が集中する太平洋沿岸の大都市を直撃します。そのため、被災者数は日本の人口の約半数に当たる6800万人に及ぶと想定されています。
また、東日本大震災では震源域が陸から離れていたため、津波が来るまでに約30分の猶予がありました。しかし、南海トラフ地震の震源域は陸に近いため、場所によっては最短3分程度で津波が来ると予測されています。
死者数は約32万人と想定されているほか、土木学会が試算した長期的な経済被害は約1410兆円で、日本の国家予算の約12年半分に及ぶと考えられています。まさに国難と呼べる大災害であり、私たちが経験しうる最大規模の災害であることは間違いなさそうです。
これらの被害想定は、いずれもさまざまなシナリオのうち、最悪のケースのものなので、実際に地震が発生した場合の被害は、これよりもやや小さいかもしれません。しかし、他の災害と比べて被害が非常に大きいのは間違いありません。では、このような巨大災害に対して、私たち個人には何ができるのでしょうか。
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