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孤独、不安…「精神的ダメージ、想像以上」…心理学者の新型コロナ感染体験記

世の中のさまざまな事象のリスクや、人々の「心配事」について、心理学者であり、防災にも詳しい筆者が解き明かしていきます。

新型コロナ第6波の中、PCR検査に並ぶ人たち(2022年1月、時事)
新型コロナ第6波の中、PCR検査に並ぶ人たち(2022年1月、時事)

 1月半ば過ぎ、第6波が急速に広がっていくタイミングで、残念ながら筆者も新型コロナウイルスの陽性判定を受け、10日間、自宅隔離の生活をしました。ワクチンを2回摂取していたからか、オミクロン株だったからかは分かりませんが、幸いそれほど重症化せず、37度台後半の熱が出て、体の節々が痛む状態が半日ほど続いた程度で、あとは軽い熱症状とせき症状で済みました。なお、この原稿は隔離期間の最終日に書いています。

 第5波までにも自宅待機の経験などはありましたが、自分自身が感染者にはならなかったので、新型コロナウイルスを「データで見ていた」というのが正直なところです。やはり、データを眺めるのと、自分で体験するのとでは大違いでした。たとえ身体的症状が軽くても、いわば「精神的症状」、つまり、心のダメージが大きいのです。そこで、今回は当事者の視点で体験記を書いてみたいと思います。ただし、あくまでも筆者個人の体験ですので、一般論ではないことを念頭に置いて、お読みください。

文字通り、「頭の中が真っ白」

 最初の兆候は、報道等でもよくあるように、夜寝る前、喉にわずかな痛みを感じたことでした。と言っても、これも強いものではなく、ちょっとした風邪か、もしかしたら暖房で乾燥していたからかな、と思う程度でした。しかし、そんな場合も感染の場合があるらしいと聞いていましたので、翌朝一番でかかりつけ医のところに行きました。寝る前も、朝いちも体温は36度台で、病院で検温して初めて37.1度となりました。

 それでも「まあ、きっと陰性に違いないだろう」とたかをくくっていた筆者の所に、お医者さんがやってきて、「残念ながら陽性です」と言いました。半信半疑で、レシートのような紙をのぞき込むと、確かに「陽性」とあります。このときの感覚は文字通り、「頭の中が真っ白」。一瞬何も考えられなくなりました。

 続いて、さっきまで一緒にいた家族のこと、仕事のこと、子どもたちの小学校や保育園のことが頭をよぎり、これからどう振る舞うべきか、どこにどういう順番で連絡するべきかなどを考え、一気に頭の処理容量がパンクしました。ひとまず、薬を待つ間、感染可能期間や隔離日数その他調べられることをスマホで調べ、職場に第一報を入れました。

 自宅に帰ると、念のため登校・登園せずに待機させていた子どもたちに、「パパ、コロナにかかっていた」ということだけを告げ、換気のため、窓を全開にしました。子どもたちをいったん別の部屋に退避させた後、パソコンやスマホ、体温計、飲み物など、差し当たり必要そうなものを1つの部屋に全部押し込み、リビングで自分が触った可能性のある場所を消毒してから部屋にこもり、子どもたちをリビングに戻しました。続いて、妻の職場、子どもの学校と保育園、感染可能期間である発症から2日前(陽性判明時点で3日前)までに会った人に連絡を入れ、事情を伝えました。

誰かに感染させていないか…

 ここまで矢継ぎ早に事を進め、一段落すると、一気に不安が襲ってきます。家族や職場の人などに感染させていないだろうか、仕事の進捗(しんちょく)は大丈夫だろうか、そもそも自分はこの後どのような症状になっていくんだろうか、それ以前に、一体いつどこで感染したんだろうか、などなど。そしてそこから、必要最低限のとき以外、部屋から出られない孤独な日々が始まります。

 新型コロナウイルスによる身体症状については、既にたくさんの専門家の記事が出ていますので、そちらを参照していただくことにして、心理学者として、自分がかかってみて言えることがあります。それは、想像していた以上に、「精神的にもダメージを受ける」ということです。

 自分が罪人になったような感覚も味わいましたし、人と話せる機会も限定的なので、どんどん悪い考えが頭の中を巡ります。幸い筆者は、感染しても直ちに収入が減ったり、職を失ったりはしませんが、そんな恵まれた状態でも、これです。もちろん、感じ方には個人差があると思いますが、「わーい、陽性だ!」という人はいないと思うので、感染者は少なからず精神的にもダメージを受け、ネガティブな状態になるのは確かだと思います。

 そこで、周囲の皆さんにぜひお願いしたいことがあります。それは、感染をその人のせいにしたり、感染したことを責めたりしないことです。もちろん、誰かが感染すれば、さまざまな形で周囲の人に、そのしわ寄せが行きます。筆者も含め、感染した人には何らかの不注意があったのかもしれません。しかし、これだけまん延してしまった現在、いくら注意していても、うつるときはうつると思います。

 そして、感染してしまった人は、身も心も想像以上に弱っています。ですから、きつい言葉を浴びせる、感染したことを責めるといった、追い打ちをかけるようなことは、決してなさらないよう切にお願いしたいのです。感染者を責めてもコロナが消えるわけではなく、わだかまりだけが残ってしまうと思いますので。

(名古屋大学未来社会創造機構特任准教授 島崎敢)

島崎敢(しまざき・かん)

近畿大学生物理工学部准教授

1976年、東京都練馬区生まれ。静岡県立大学卒業後、大型トラックのドライバーなどで学費をため、早稲田大学大学院に進学し学位を取得。同大助手、助教、国立研究開発法人防災科学技術研究所特別研究員、名古屋大学未来社会創造機構特任准教授を経て、2022年4月から、近畿大学生物理工学部人間環境デザイン学科で准教授を務める。日本交通心理学会が認定する主幹総合交通心理士の他、全ての一種免許と大型二種免許、クレーンや重機など多くの資格を持つ。心理学による事故防止や災害リスク軽減を目指す研究者で、3人の娘の父親。趣味は料理と娘のヘアアレンジ。著書に「心配学〜本当の確率となぜずれる〜」(光文社)などがあり、「アベマプライム」「首都圏情報ネタドリ!」「TVタックル」などメディア出演も多数。博士(人間科学)。

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