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人物本位としつつ偏差値で選考 「学歴フィルター」による採用、法的問題はない?

企業が人物本位の採用をうたいながら、実は「学歴フィルター」を使って採用活動をしている場合、法的責任を問われないのでしょうか。

「学歴フィルター」の法的問題は?
「学歴フィルター」の法的問題は?

 先日、就職情報会社マイナビが、出身大学名で就活生の扱いに差をつける「学歴フィルター」をしていると疑われるメールを就活生に送信していたことが大きな話題となりました。マイナビは学歴フィルターの存在は否定しましたが、以前から、企業が新卒採用で「出身大学の偏差値で事前選考している」といった話は都市伝説のように言われ続けています。

 そのため、最近は新卒採用で学歴や肩書ではなく、その人そのものを判断する「人物本位」の採用をうたう企業が多いですが、「やはり、学歴フィルターも使っているのでは?」と疑う人がいるようです。企業が人物本位の採用をうたいながら、実は学歴フィルターを使って採用活動をしている場合、法的責任を問われないのでしょうか。

 佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

企業には「採用の自由」

Q.学歴フィルターが行われると、採用選考の対象にすらならない学生が出てきます。出身大学の名前だけで選考対象から外すことは差別的な扱いのように思うのですが、法的問題はないのでしょうか。

佐藤さん「法的に問題にはなりません。企業には『経済活動の自由』が憲法22条と29条で認められているからです。最高裁判所も企業の『採用の自由』を広く認めた判決を出しています。従って、企業が誰をどのような方法で採用したとしても、原則、自由です。

例外として、公正な採用を実現するため、性別に基づく差別は『男女雇用機会均等法』で禁じられていますし、年齢制限については『労働施策の総合的な推進ならびに労働者の雇用の安定および職業生活の充実等に関する法律(旧雇用対策法)』で禁じられています。また、厚生労働省は、採用選考時、『企業が、応募者の出生地や家庭環境など本人に責任のない事柄を把握したり、宗教や社会運動など個人の自由に委ねられるべき事柄を把握したりすることを、控えるべきだ』としています。

こうした事柄を把握すると、適性や能力に関係ない“差別”につながりかねないからです。しかし、学歴については、一般的に、応募者の適正や能力に関係のある要素の一つだと考えられており、企業が応募者の適性や能力を判断する要素にしたとしても、不当な差別には当たらず、企業の『採用の自由』の範囲内と考えられています」

Q.仮に学歴フィルターを行っている企業があったとしても、そのことを公にする企業は見たことがありません。もし、公にすれば、法的問題があるからでしょうか。あるいはただ単に、企業イメージの悪化を恐れているからでしょうか。

佐藤さん「学歴フィルターを採用している企業が仮にそのことを公にしたとしても、法的問題は生じません。先述したように、企業には採用の自由があり、公にした上で採用することも違法にはなり得ないからです。仮に学歴フィルターを採用している企業があり、そのことを公にしていないとすると、その理由は企業イメージの悪化を防ぐためだろうと思います。

学歴フィルターについて、いろいろな受け止め方がある中で、企業としては、応募者を軽んじているようなイメージを持たれることは防ぐ必要があるでしょう」

Q.最近は学歴や肩書ではなく、その人そのものを判断する人物本位の採用をうたう企業が多いです。そのようにうたっていても、仮に学歴フィルターを行っている場合、詐欺にならないのでしょうか。

佐藤さん「詐欺罪は、お金などをだましとる場合に成立するものなので、うそをついただけでは成立しません。そのため、人物本位の採用をうたう企業が学歴フィルターを採用していたとしても、詐欺には当たりません。そもそも、『人物本位の採用』という言葉の中には、学歴も含め、その人の能力や適性を判断するといった意味合いが含まれているケースもあるでしょうし、企業側がうそをついていると評価することさえ難しいと思います。

仮に『学歴は一切考慮しません』などと明示しながら、実は学歴フィルターを採用していたとしたら、応募者に期待感を持たせた上で裏切っているので道徳的には問題があるでしょう。しかし、先述したように、企業には、どのような方法で採用するかについても広い裁量があるため、違法とまではいえないでしょう」

Q.企業の人事担当者が膨大な応募書類に目を通して選考する必要から、選考前に何らかの基準を設けて、選考対象を絞りたい気持ちも分かります。正直に企業側の実情を発信して、理解を求めることは難しいのでしょうか。

佐藤さん「企業側の実情を発信して、選考対象を絞る方法を公にするやり方も一つの方法ではあるでしょう。ただし、選考対象を絞ることは、ある人にとっては門前払いとなる可能性があり、それに対して、さまざまな受け止め方がなされると思います。さまざまな立場の人が就職活動に臨む現状を踏まえると、企業としては、一定の人をないがしろにしているような印象を与えかねない方法を採用することは難しいのではないでしょうか」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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