結果を叱る「しつけ」は親子でストレス、“正しい行動”褒めるのが効果的?
子育てをする上で避けて通れない「しつけ」。子どもが悪い行動を取った後に叱るのは「後の祭り」だと筆者は指摘します。親と子ども、両者にとってストレスの少ないしつけを行うには、どうすればよいのでしょうか。

子どもがやってはならないことをしたとき、とっさに「大きな声を出しちゃだめ」「いいかげんにしなさい」などと叱ってしまったことはありませんか。しかし、時すでに遅し。子どもは自分の行動を否定されて不愉快になり、親も自分の荒らげた声にストレスを感じます。
子育ての中で、しつけは避けて通れないことですが、できれば、お互いにストレスなく教えていきたいですよね。
“正しい行動”を見逃さない

私は知的障害者移動支援従事者をしています。ある日、自閉症の小学生のガイドヘルパーとして電車に乗ったときのことです。車内で、その子が大きな声を出しました。すると、周囲から冷たい視線を浴びせられ、一部の乗客は席を移動していきました。
私の息子も知的障害を伴う自閉症児ですが、障害者コミュニティーの中にいると「意味不明なことを発声する」「ブツブツと独り言を言う」「空中に意味なく、指で何かを書く」「空中を見つめてニヤニヤする」などは当たり前の光景になっています。息子もそんな行動をします。ですから、私は気にも留めていませんでした。
この出来事で、障害者への世間からの理解がまだまだ進んでいないことを痛感しましたが、もし、自分が逆の立場で、電車で眠りたいときや、スマホで仕事をしたいときに同じ状況になったら、私も席を移動するかもしれません。奇声を上げている子どもに「シー」と注意しても、静かにさせることは難しいです。そこで、別の機会に同じ状況になったとき、こんな工夫をしてみました。
大きな声を出されてしまってから、「シー、静かにしようね」と注意するのは後の祭りです。しかし、声を出していない場面もあります。そのタイミングを逃さずに「静かにしていて、我慢していて立派だね」と褒めるようにすると、気のせいかもしれませんが、静かにしている時間が長くなったような気がしました。
これは何も、障害を持つ子に限ったことではありません。親から見て、褒める材料が見当たらなくても「物を散らかしていない」「座っている」などの場面は、たとえ一瞬でもあるはずです。
つまり、「物を散らかしているときに叱るのではなく、片付いているときに褒める」「騒いでいるときに叱るのではなく、静かにしている瞬間を見逃さずに褒める」のです。すると、叱る回数はぐーんと減っていきます。これは行動主義心理学における「負の行動を強化せず、正の行動を強化する」考え方です。
「席に座っている」「片付ける」「静かにしている」などの“正の行動”を評価し、「立ち歩く」「物を散らかす」「騒ぐ」などの“負の行動”は知らんぷりをするか、公共交通機関など無視できない状況の場合でも、そっと注意する程度にとどめる。こうしていくと“負の行動”が減っていきます。
問題行動で気を引こうとする場合は?
一方、親に構ってほしくて、あえて“負の行動”ばかり取る子もいます。「よい行動をして、お母さんに褒められることは僕にとって、とてつもなくハードルが高い。だったら、悪い行動をしてお母さんに叱ってもらい、構ってもらおう」としている場合です。
人は認めてもらいたい生き物です。それは子どもも同じこと。よいことをしても親が気付いてくれないと、問題行動を起こして叱られる形でもいいので、「認めてもらおう」と必死になることもあります。「100点に近づくよりも、0点に近づく方が手っ取り早い」ことに気が付いてしまうのです。
親の気を引くために“負の行動”をしているケースの場合、それに対して叱る行為は、子どもにとっては「悪いことをすれば、親が関わってくれる」ことになり、むしろ願ったりかなったりです。悪い行動は収まるどころか、増えていく一方になります。すなわち、“負の行動を強化している”状態です。
「わざとお茶をこぼす」「本を破る」などの悪い行為をしたときはむしろ、声を掛けず、「こぼさないでお茶を飲めた」「本を破らずに見ている」などのよい行動を取っているときに「こぼさないで飲めたね」「本を破っていないね」と認め、褒める形で関わります。すると、子どもは「悪い行動(負の行動)をしても関わってもらえない。でも、よい行動(正の行動)をすれば関わってもらえる」と学習し、負の行動は自然に消滅していきます。
私は長年、学習塾で小学生の指導をしていましたが、あるとき、勉強もいまひとつ、授業態度も悪いという「褒める材料が見つけにくい子」がいました。この子を叱っても行動が改善することはありませんでした。そこで、授業態度をネチネチ叱るのではなく、「雨なのに休まないで来て、頑張っているね」と、できていることを認めるようにしました。
さらに、筆箱やノートの忘れ物をしても、そのことには触れず、「授業日を忘れずに教室にやってきた」ことを褒めました。他にも「髪形を褒める」「風呂に毎日入っていることを褒める」「計算問題の答えが全部間違っていても、 数字の書き方を褒める」ということを続けていました。すると、授業態度が次第に改善していったのです。
親子の間ではなかなか難しいかもしれませんが、参考にしてくださいね。
(子育て本著者・講演家 立石美津子)
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