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5人以上はダメでは…? 菅首相ら8人会食、コロナ感染対策に悪影響は出ない?

政府が5人以上の会食を控えるよう国民に呼び掛ける中、菅義偉首相ら8人が都内の飲食店で会食を行い、批判が殺到。このことは新型コロナウイルスの感染対策にどのような影響を与えるのでしょうか。

菅義偉首相(2020年10月、時事)
菅義偉首相(2020年10月、時事)

 新型コロナウイルス感染拡大防止のため、政府が5人以上の会食を控えるよう国民に呼び掛ける中、菅義偉首相や自民党の二階俊博幹事長ら8人が12月14日、東京都内のステーキ店で会食を行い、ネット上では「国民には自粛を押し付けておいて何だ!」「自粛するのがバカらしい」など批判が殺到しました。国のトップである首相が大人数の会食に出席したことは、新型コロナウイルスの感染対策にどのような影響を与えたのでしょうか。医療ジャーナリストの森まどかさんに聞きました。

国民との信頼関係が崩壊

Q.菅義偉首相の会食の2日後、西村康稔経済再生相は「5人以上の会食が一律で駄目とは言っていない」と話し、新型コロナウイルスに対する政府のあいまいな姿勢が浮き彫りとなりました。このことは、新型コロナウイルスの感染対策にどのような影響を与えたのでしょうか。

森さん「そもそも、感染対策と経済対策の両立という方針を継続する現在の日本において、感染対策は個人の価値観や考え方に委ねる『呼び掛け』にとどまっています。呼び掛けによる感染対策の徹底は、国と国民の間に信頼関係がなければ成り立つことが難しいです。

そのような中、(1)東京を中心とする首都圏、北海道、大阪府、愛知県などでは感染確認数の増加や高止まりが続く(2)全国的に見ても、過去最多の感染確認数を更新する地域が多発している――といったことから、感染リスクが高いと分かっている飲食機会での行動には連日、警鐘が鳴らされてきました。また、65歳以上の高齢者が重症化するリスクが高いことはデータでも明らかな上、専門家も注意を呼び掛けてきました。

そうした情報に基づいて、国民が適切な判断をしていく必要がある時期、自民党の二階俊博幹事長(81)、プロ野球ソフトバンクホークスの王貞治球団会長(80)、俳優の杉良太郎さん(76)、タレントのみのもんたさん(76)ら高齢の人たちが集まって会食を行い、そこに、日々の行動が報道される首相も参加したことは感染対策の方向性が大きく揺らいでいる印象を与えました。

さらに、西村大臣が公にこれを肯定する発言をしたことは、対策の前提である信頼関係を損なう結果につながりかねません。今後、個人の判断基準までがあいまいになる可能性があり、コロナ禍での行動格差をさらに広げることにもなりかねないため、感染予防においてマイナスに働くのではないでしょうか」

Q.「首相が会食をしても平気だったから怖くない」などと楽観的に考え、年末年始に大人数での忘年会や新年会を開く人も出てきそうです。どのようなリスクがありますか。

森さん「本来であれば、菅首相が会食したことと、各個人が『感染しない、させない』ために会食を控えることは関連付けることではないと思います。しかし、首相の会食が報じられることによって、『会食でのリスクは高くない』という認識につながったとすれば、忘年会や新年会の場での感染対策がおろそかになる可能性はあります。大人数で会食すると大きな声で話しがちになるため、飛沫(ひまつ)の量が増えます。また、飲食中はマスクを外すので飛沫による感染リスクがより高まります。

また、新型コロナウイルスは発症前の人や無症状感染者からも感染する可能性があることが分かっています。もし、そうした人たちが忘年会や新年会に出席し、同席した人が感染した場合、家族や知人に感染を広げるリスクや『濃厚接触者』となり得る人を増やすことにつながります。それが普段行動を共にしている人ではない人との会食であれば、参加者それぞれのコミュニティーにウイルスが持ち込まれ、広範囲に感染拡大する可能性もあります」

Q.時短営業をしてきた飲食店が首相の会食報道で「自粛はばかばかしい」と通常営業に戻した場合、どのようなリスクがありますか。

森さん「『自粛がばかばかしい』というより、店の存続のために時短営業が選択できないという経済的な理由から、通常営業する飲食店も多いと思います。

例えば、これまで時短営業していた飲食店が深夜営業を再開した場合、長時間飲酒する客が増える影響で、客が大きな声を出したり、マスクの取り扱いや手指消毒など基本的な感染対策をおろそかにしたりする可能性はあります。また、今の時期は特に夜の外気温が低いため、換気もしにくい状況であり、不特定多数のグループが同じ空間に長時間いることが感染リスクの高い環境につながる可能性も考えられます。

飲食店関係者が心掛けるべきことは換気、店内の消毒、スタッフの体調管理の徹底とマスク着用などに加え、感染が拡大している地域では特に、入店人数を調整してテーブルの間隔を広めにすることや大声で会話をしているグループへの声掛け、食後の歓談が中心となっているグループにはマスクの着用を促すことなどです。一般社団法人日本フードサービス協会などが作成した『外食業の事業継続のためのガイドライン』に示された感染対策を再度確認し、スタッフ間で共有しましょう」

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森まどか(もり・まどか)

医療ジャーナリスト、キャスター

幼少の頃より、医院を開業する父や祖父を通して「地域に暮らす人たちのための医療」を身近に感じながら育つ。医療職には進まず、学習院大学法学部政治学科を卒業。2000年より、医療・健康・介護を専門とする放送局のキャスターとして、現場取材、医師、コメディカル、厚生労働省担当官との対談など数多くの医療番組に出演。医療コンテンツの企画・プロデュース、シンポジウムのコーディネーターなど幅広く活動している。自身が症例数の少ない病気で手術、長期入院をした経験から、「患者の視点」を大切に医師と患者の懸け橋となるような医療情報の発信を目指している。日本医学ジャーナリスト協会正会員、ピンクリボンアドバイザー。

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