「高齢者向け分譲マンション」で新型コロナ感染者が出ない理由
介護老人施設と高齢者向け分譲マンション。ともに高齢者が集まる場ではありますが、大きな違いがあります。
今回のコロナ禍では、多くの介護老人施設で集団感染が発生しました。高齢になるほど重症化しやすく、新型コロナウイルスによる死者は70代以上で8割を占めています。介護施設では、感染を恐れて出勤を望まない職員もいて、人手不足による介護崩壊の可能性も取り沙汰されました。
そんな中、5物件で計約1100人の入居者がいながら感染者を一人も出さず、スタッフのシフトにも全く影響がなかった「高齢者向け分譲マンション」が関西にあります。「中楽坊(ちゅうらくぼう)」というブランドで、高齢者向け分譲マンションを展開する企業、ハイネスコーポレーションの川村千佳さんに取材しました。
集団感染が起こった3つの理由
まず、老人ホームなどの「施設」と高齢者向け分譲マンションの違いは、どこにあるのでしょうか。新型コロナウイルスの感染が広がる中で見えてきたという傾向を川村さんに聞きました。
老人ホームなどの施設で集団感染が起こった理由は、3つあるとされます。
1つ目は、施設でのサービス提供の際に「濃厚接触」が避けられないこと。抱き起こしや排せつ介助、オムツ替え、投薬、部屋の清掃、食事の介助、入浴介助は、密接状態にならないとできません。
2つ目は、共用の設備や用具が多いこと。トイレや風呂は共同、タオルやシーツなどのリネン類、食器、箸も共用です。自宅と比べると「他者が触れたもの」を触ることが多いので、感染の可能性も高まります。
3つ目は、入所者の免疫力・抵抗力が低いこと。要介護認定を受けていて、体力が弱っていたり基礎疾患があったりするので、健康な人なら感染・発症しない場合でも、感染して重症化しやすくなります。
その点、高齢者向け分譲マンションは、ほとんどが要介護認定を受けていない健康な高齢者で、自宅で自立して暮らしているので、これら3つのリスクがないそうです。だから、スタッフのシフトにも影響がなかったのでしょう。「高齢者が集まっている」という外形だけを見て施設と混同してしまいがちですが、実際は全く違うことが分かります。
「自分の家を守る」意識の高さ
条件的には、比較的リスクの低い高齢者向け分譲マンションですが、それでも「かなり危機感を持って取り組みました」と川村さんは言います。マスクの着用や検温、手指の消毒、共用部の消毒と換気、サークル活動の休止など、さまざまな対策を早期から講じたようです。ただ、それらの対策自体はそんなに特別なものではありません。
川村さんが「大きかった」と指摘するのは対策そのものではなく、「入居者の高い意識や協力的な行動」だったそうです。管理会社と管理組合(入居者)が十分に対話をし、「一致団結して感染防止に向かっていった」「全ての入居者が互いに声を掛け合い、体調などを気遣い合っていた」「さまざまなルールや要請に、前向きに従っておられた」といいます。
老人ホームなどの施設では一般的に、オーナー(運営側)がルールを決め、利用者にその順守を求めることになります。しかし、分譲マンションは入居者が『所有者』なので、自分たちが主体となり、入居者でつくる管理組合と管理会社が合意してルールを決定します。
運営者が定めたルールに従うしかない施設とは違い、分譲マンションでは、自分たちで決めたルールという当事者意識があるので、決まりや要請に前向きに従おうという気持ちが生まれやすくなります。ベースには、所有者として「新型コロナから自分の家、自分たちのマンションを守ろう」という意識もあったのでしょう。
今回のような事態ではルールも大事ですが、それをしっかり守るかどうか一人一人の姿勢が問われます。もちろん、老人ホームなどの施設の中にも、意識の高い管理者や入居者がおられると思いますが、中楽坊の場合、入居者の特に高い意識と協力的な姿勢が“感染者ゼロ”やマンション管理の安定的な運営という結果を導いたといえるでしょう。
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