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「かかりつけ医」という名前だけが放置され…欧州では一般的な「高齢者のプライマリーケア」が日本で期待できない理由

欧州で制度が確立されている「プライマリーケア」。高齢者にとって重視されるようになる中、日本では決して行き届いているとはいえない状況です。「プライマリーケア」の必要性を指摘する筆者が考える、その理由とは――。

「プライマリーケア」なぜ日本では広がらない?
「プライマリーケア」なぜ日本では広がらない?

「プライマリーケア」とは、「身近にあって何でも相談に応じてくれる、総合的かつ継続的な医療」といった意味の言葉で、健康状態の把握やアドバイス、応急的な処置・治療、訪問診療のほか、状況に応じて専門医を紹介するといった機能などを担うものです。特に高齢者については、病気になると重くなりやすく、元に戻るにも困難を要するので、初期の段階で何でも相談できるプライマリーケアがより重視されるようになってきました。

 しかし実際には、何でも診ることができる医師は多くないため、「専門ではない」と断られたという話はよく耳にしますし、調子が悪いけれどどこに行けば診てもらえるか分からない、急に行ったら「先生がいない」「今日は忙しい」と断られる……というようなケースもあります。

 欧州の国々では「一般医」「家庭医」(General Practitioner)といった制度があり、プライマリーケアの仕組みが確立されていますが、日本では意味も役割も曖昧な「かかりつけ医」という名前だけが長年、そのまま放置されており、プライマリーケアが行き届いているとはいえない状態です。

プライマリーケアは「2つから成る」

 ただし、プライマリーケアを医療任せにしていいのかどうかは、考えてみる必要があります。

 例えば、ちょっとした体調不調があったとき、その話に耳を傾けてくれ、自分たちの経験を含めてさまざまな情報提供などをしてくれる仲の良い人たちが近所にいれば、医者ではなくても大いに助かるでしょう。お互いのことをよく分かっているのも心強く、その点では医者よりも上です。

 しょっちゅう会って普段の様子を知っていれば、ちょっとした異変にも気付いてくれる可能性が高くなるので、早期発見にもつながります。健康づくりのための運動や交流や食事などに関する良い生活習慣も、1人でいるよりも良好な人間関係がある方が、強化・継続を期待できます。

 そう考えると、昔にあったような地域コミュニティーは、プライマリーケアの役割を担っていました。近隣の人たちがお互いをよく知っていて、あいさつをし、立ち話をし、一緒に食べ、笑い、年中行事や冠婚葬祭に力を合わせ……といったことの一つ一つが、すべてプライマリーケアだったという気がしてきます。

 高齢者に関する研究活動を行う筆者が、作家で僧侶の家田荘子さんとの共著で2025年3月に出版した「老い上手」(PHP出版)の中でも詳しく触れましたが、近年の地域コミュニティーの崩れは、プライマリーケアの喪失につながっており、高齢期の心身の健康を危うくしているという面があります。

「ロゼトの奇跡」は、アメリカのペンシルバニア州にあった、高齢者が驚くほど健康だった町の実話ですが、20世紀前半に行われた研究は「ロゼトの人々の健康の秘訣(ひけつ)は、連帯感や助け合いにあった」という結論を導きました。近年も、「社会参加する機会が多いほど、死亡率が低い」「誰かと一緒に食事をする機会が多いほど、要介護のリスクが低下する」「友達の数や種類が多いほど、自分の歯の本数が多い」「1人で運動するより、皆で運動する方が効果的である」など、つながりや交流の多さが高齢期の健康のカギであるという研究結果が次々と発表されています。

 これらの研究から明らかなのは、健康とは、医療によって実現するというような単純なものではないということです。

 確かに、病気やケガを治療して元に戻すのは医療の役割ですが、病気がケガを未然に防いだり、小さな異変や不調に気付いて上手に対応したり、健康維持に配慮した生活を継続するといったことは、医療ではなく、私たち一人一人、また個人を支える家族やコミュニティーの役割です。つまり、プライマリーケアは「医療によるケア」と「コミュニティーによるケア」の2つから成ると理解すべきだろうと思います。

 しかし、医療によるプライマリーケアが十分に機能している、つまりどんな地域にも、ほとんどの疾患に対応できる医師が存在し、日常の健康相談などに継続的に乗ってくれるような状態は当面、期待できません。日本にはそれだけの数の「一般医」がいないからです。

 例えば、総医師数に対する「一般医」の割合は、イギリスやドイツでは約3割、フランスでは5割近くになりますが(出典:高齢社会における医療報酬体系のあり方に関する研究会報告書【2005年版】)、日本ではそれほどの数はいないとされています。

 一方のコミュニティーによるケアも、孤独や孤立が問題になるくらいですから心もとない状況で、つまり、高齢者が適切なプライマリーケアを手に入れるのは相当に難しいというのが現状です。

 高齢者の不安、高齢の親と遠く離れて暮らす現役世代が抱く不安の原因はここにあり、元気なうちの住み替えを検討する高齢者や、親の「終の棲家(ついのすみか)」選びを考え始める現役世代が増えているのも、このような現状をよく表しているのでしょう。

(NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕)

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川口雅裕(かわぐち・まさひろ)

NPO法人「老いの工学研究所」理事長、一般社団法人「人と組織の活性化研究会」理事

1964年生まれ。京都大学教育学部卒。リクルートグループで人事部門を中心にキャリアを積む。退社後、2012年より高齢者・高齢社会に関する研究活動を開始。高齢社会に関する講演や執筆活動を行うほか、新聞・テレビなどのメディアにも多数取り上げられている。著書に「年寄りは集まって住め ~幸福長寿の新・方程式」(幻冬舎)、「だから社員が育たない」(労働調査会)、「チームづくりのマネジメント再入門」(メディカ出版)、「速習! 看護管理者のためのフレームワーク思考53」(メディカ出版)、「なりたい老人になろう~65歳から楽しい年のとり方」(Kindle版)、「なが生きしたけりゃ 居場所が9割」(みらいパブリッシング)、「老い上手」(PHP出版)など。老いの工学研究所(https://www.oikohken.or.jp/)。

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