親はなぜ、子どもが言うことを聞かなくても怒鳴ってはいけないのか
子どもが言うことを聞かないとき、怒鳴ったり、手を出してしまったりすることがあります。そうすべきではない理由を解説します。
子どもが言うことを聞かないとき、怒鳴ったり、手を出してしまったりすることがあります。親だって人間です。誰しもイライラがピークに達して感情が爆発してしまうことがあるでしょう。
それらの行為を「わが子のためを思って」の愛情からと思い込み、「自分も親に厳しくたたかれて育った。今の自分があるのは親のおかげ」「なぜ、子どもをたたくのがだめなのか分からない」という人もいます。
子育ての仕方は連鎖する
「子育ての連鎖」という言葉をしばしば耳にします。子育てについてインターネットなどで調べて知識を得たとしても、「人は自分が育てられたのと同じようにわが子を育てる」という意味です。
「自分自身が身体的虐待などの暴力を受けて育ったという親は、その経験から『子育てには体罰が必要』という、体罰を肯定的にとらえる養育観を持つことがある。こうした養育観を背景に、『言ってもきかないときには叩(たた)いてでも教えるのが親の務め』といった具合に体罰をともなう『しつけ』を日常化させやすい」(西沢哲「子ども虐待」)
虐待事件が起こると、児童相談所の怠慢さや親への非難が取り沙汰されますが、その親自身も壮絶な虐待を受けた生い立ちを持つケースが多いといわれているのも、その例かもしれません。
自分が暴力を受けながら育てられた場合、「それが子育ての仕方だ」と学習してしまいます。「言っても従わない場合は、たたいてでも教えるのが親の務め」という価値観が、幼い頃に経験を通して染み付いているので、わが子にもそれを再現するのです。
さらに、「たたかれて、怒鳴られて、厳しく育てられたからこそ、今の自分がある。だから今は、親に感謝している」とまで思ってしまいます。今までの自分の人生や親を否定することには苦痛が伴うからです。しかし、もし過去にタイムスリップできたとしたら、そこには恐怖におびえる自分がいるのではないでしょうか。
いつしか“親のまね”をする子ども
子どもは本能的に「やっていいこと/悪いこと」を知ってこの世に誕生するわけではないので、親が教えていかなくてはなりません。本来の「しつけ」とは、文化やルールを一つ一つ丁寧に教えていくことです。
例えば、手で直接食べ物を取り、口に運ぶ「手食文化」という食文化があります。世界の4割強の人が手で直接食べているといわれています。手食文化を持つ国の中には、「食べ物は神から与えられた神聖なものだから手で食べる」という考え方もあるようです。食事前に手をきれいに洗い、口もすすぐのがマナーといわれる他、「不浄の手」とされる左手を使って食べるのはご法度とされている文化圏もあります。
もし、こうした国で箸のようなもので食べ物をつまんだり、左手で食べたりしたら叱られるかもしれません。「手づかみで食べるのは行儀が悪い」というのは、日本の習慣に由来するものであり、それ自体が悪いわけではありません。しかし一方で、もし4歳を過ぎても手づかみでご飯を食べる子どもがいたとしたら、日本では許されないでしょう。
こんなときは、子どもの手をパーンとたたいたり怒鳴ったりするのではなく、どうすればよいかを具体的に、かつ根気よく繰り返し教えていくしかないのです。そして、たとえ一瞬でもきちんとできたら、「そうそう、スプーン持てているね」と、よい行動をしたことを言葉にして認めます。この繰り返しで、子どもはやっていいことと悪いことを学んでいきます。親も感情をぐっとこらえる忍耐が必要なのです。
たたいたり怒鳴ったりするしつけによって、子どもが大人の言うことを聞いたとしても、それは「僕は本当にいけないことをしてしまった」と反省しているわけではなく、「痛いから」「怖いから」渋々従っているだけなのです。
親が子どもを意のままに動かす方法として暴力に頼っていると、親が自分にしたやり方をまねて、大人が見ていないときに、陰で自分より弱い子や小動物をいじめるケースもあります。また、子どもが親の背丈を超えたときに立場が逆転し、親が子どもから暴力を振るわれるようになったり、精神的に不安定になったりすることもあります。また、その子自身が親になったとき、同じような行動を取る“連鎖”が始まりかねません。
「体罰を肯定しない」意識を持つ
知り合いで、わが子を褒めるのがとても上手な人がいました。「お利口だね」といった通り一遍の褒め方ではなく、「自分から『おはよう』と言えた」「脱いだ靴をそろえた」といったわずかな成長に気付き、子どもの行動を認めた上で、声に出して褒めるのです。これは「あなたのことをいつも忘れずに見ているよ」という愛情表現なので、子どもは「もっと認めてもらいたい」と思い、よい行動が増えました。
「お子さんの褒め方が上手ですね。なぜ、わが子にそれができるんですか?」と聞くと、「私も親から褒められて育ったので」と返ってきました。これも“連鎖”だと感じます。褒められて育った人は褒め上手になるのかもしれません。なかなか難しいことですが、少なくとも、親にたたかれて育った経験のある人は、体罰を肯定しないという意識をよりしっかりと持つことが大切だと思います。
(子育て本著者・講演家 立石美津子)
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