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無意識に攻撃的な言葉が出る「汚言症」 原因や治療、疑いがあった際の対処法は?

場所や状況、自分の意思とは無関係に、「死ね」「くそ」「殺す」などの攻撃的な言葉を発してしまう「汚言症」に悩む人がいます。汚言症とは、どのようなものでしょうか。

攻撃的な言葉を言う子ども、もしかして「汚言症」?
攻撃的な言葉を言う子ども、もしかして「汚言症」?

 場所や状況をわきまえず、また、自分の意思とは関係なく、「死ね」「くそ」「殺す」などの攻撃的な言葉を発してしまう「汚言症」。こうした症状を日常生活の中で自覚している人は少なくなく、ネット上では「いつも無意識に汚い言葉をつぶやいてしまう」「ストレスのせいと思っていたけど、病気なの?」「子どもが汚い言葉を発するようになって心配」「治せるのなら治したいです」などの体験談も多くあります。

 ひそかに悩む人が多い「汚言症」とは、どのような症状なのでしょうか。精神科専門医の田中伸一郎さんに聞きました。

国際疾病分類で「音声チック」に分類

Q.「汚言症」とは何でしょうか。

田中さん「汚言症(コプロラリア)とは、ギリシャ語の『コプロス(糞便)』『ラリア(話す・話し方)』からつくられた言葉で、『くそ』などと無意識に発してしまう症状です。現在では、これを拡大解釈して、汚い言葉以外にも社会的に不適切ないやらしい言葉や、攻撃的な言葉を発する症状を汚言症と呼ぶようになりました。汚言症は、軽いものであれば誰にでも出現するため、実際にどれくらいの人が発症しているのかについてのきちんとしたデータはありません」

Q.汚言症の診断基準とは。

田中さん「世界保健機関による国際疾病分類によれば、汚言症は『音声チック』に分類されています。音声チックとは、せき払い▽ほえる▽鼻をすする▽シューという音を出すなどの『単純型』から、特定の単語を繰り返す▽社会的に受け入れられない(しばしばわいせつな)単語を使う▽自分の発した音や単語を繰り返すなどの『複雑型』まで、さまざまな種類が知られています。

軽症であれば短期間で自然治癒しますが、中には、まばたき・首振り・肩すくめ・顔しかめなどの『運動チック』を伴い、1年以上持続して日常生活に著しい支障をきたす『トゥレット症』という重症例もあります。アメリカ精神医学会の診断基準でも、社会的に不適切な言葉を無意識に発してしまうものは音声チックに分類され、診断基準のポイントとしては次の4点に絞られます。

(1)18歳以前に発症する
(2)持続期間が1年未満の場合(暫定的チック症)
(3)持続期間が1年以上の場合(持続性チック症)
(4)運動チックを伴い、持続期間が1年以上の場合(トゥレット症)

中でも(1)が重要です。精神医学的には『主に子どもにみられる症状』で『日常生活に何らかの支障をきたす』レベルまでいかないと、病気と見なされません」

Q.汚言症の発症原因は何でしょうか。

田中さん「よく分かっていません。最近の研究では、重症例の場合、厳しいしつけなどの養育環境よりも、何らかの脳機能異常があるのではないかと考えられています」

Q.症状が出やすい状況やタイミングはどのようなものですか。

田中さん「一般に、チックの症状は無意識的なものであるため、抑えようと注意を向けるほど余計に起きてしまうという特徴があります。また、授業中・店内・車内・待合室など静かでいることや緊張を強いられる場面では、社会的に不適切な言葉を発するのを止めようと必死になり、むしろ症状が悪化してしまうことが多いです」

Q.無意識に「くそ!」などとつぶやいてしまう行為も汚言症に該当しますか。

田中さん「大人になりストレスフルな生活を送っていると、どうしても『くそ』などと無意識につぶやいてしまうことがあります。正常範囲の状態から病気の状態までを連続体として捉える最近の考え方に従えば、ネガティブワードの独り言も汚言症の端っこに位置付けてよいかもしれません。ただし、日常生活に支障をきたすほどではないので、精神医学的には『正常範囲』です」

Q.汚言症を治療することは可能でしょうか。

田中さん「先述の通り、チックの症状は軽いものであれば一過性で終わり、自然治癒します。診断基準には『目安として1年』とありますが、一般には、数カ月持続したら児童専門の精神科外来を受診し、汚言症としての治療を受けることができるかどうかの相談を始めてもよいと思います」

Q.汚言症と思われる症状に悩んでいる人や、子どもの汚い言葉を心配する親は多いですが、「もしかしたら汚言症かも」思ったら、まずどのような行動を取るのがよいのでしょうか。

田中さん「まず、汚言症と思われる症状に悩んでいる人が大人である場合、子ども時代にチックの症状がなかったかどうか、自分で振り返ってみたり、両親に確認してみたりする必要があります。子ども時代のチックの症状が大人になって再発した場合は、大学病院などの精神科外来を受診しましょう。大学病院をすすめるのは、例えば、チックのように見えた症状が脳神経の病気の症状であった場合に、神経内科や脳外科などと連携しながら診断・治療できるからです。

次に子どもが汚い言葉を発して困っている場合、『そんなこと言っちゃだめ』と叱るのが最もよくありません。先述のように、止めようとすればするほど悪化するからです。汚言症が始まったら、ひとまず、どのような場面で起こりやすいか/起こりにくいかを観察し記録しておくことです。そして、汚言症の症状が数カ月持続したり、まばたきや首振り、肩すくめ、顔しかめといった運動チックの症状も見られたりするようなら、児童専門の精神科外来を受診しましょう」

(オトナンサー編集部)

田中伸一郎(たなか・しんいちろう)

医師(精神科専門医)・公認心理師

1974年生まれ。東京大学医学部医学科卒業。赤光会斎藤病院、東京大学医学部付属病院精神神経科、杏林大学医学部精神神経科学教室などを経て、現在は、獨協医科大学埼玉医療センターこころの診療科准教授。「誰もがこころの問題を理解し、互いに助け合うことのできる社会づくり」を目指し、精神医療の最前線で老若男女の患者を日々診療しながら、メディアを通じて正しい知識を普及すべく活動の場を広げている。

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