需要で価格変更「ダイナミックプライシング」、小売業界でも導入? 消費者に影響は?
航空業界やホテルなどでは、需要動向に応じて価格を変更する「ダイナミックプライシング」が導入されていますが、小売業界にも本格導入の動きがあるようです。

航空やホテル業界、一部テーマパークなどでは、市場の需要動向に応じて価格を変更する「ダイナミックプライシング」が導入されていますが今後、小売業界でも本格的に導入されるかもしれません。一部報道によると、家電量販大手のビックカメラは2020年度末をめどに全店舗で導入、価格をデジタル表示する電子棚札を各店舗に設置し、本部が需給に応じて価格を一括変更できるようになるとのことです。
ビックカメラ広報・IR部の担当者は取材に、「従業員の負担軽減などのため、今後、全店で電子棚札を設置していくことは事実です」と回答。もし同社がダイナミックプライシングを導入すれば、同業他社も相次いで導入する可能性があります。
小売業界で「ダイナミックプライシング」が本格的に導入されると、消費者にどのような影響があるのでしょうか。流通アナリストの渡辺広明さんに聞きました。
安く売れない小売業者は淘汰?
Q.そもそも、企業が「ダイナミックプライシング」を導入するメリットは。
渡辺さん「価格が常に変動するダイナミックプライシングを展開するには、基本的に電子棚札の導入が必要で、店舗運営の負担が軽減されます。家電量販店ではセールなどに合わせて、商品の値札を貼り替えますが、人手が必要で時間もかかり、商品数が多ければ多いほど大変です。
また、商品ごとに型番がありますが、アルファベットや数字の羅列で商品の見分けが難しく、値札の貼り間違いも発生します。家電量販店が導入する気持ちは分かります。
こうした状況は、コンビニエンスストアでも同じです。コンビニの日用品売り場を見れば分かりますが、値札が貼られていなかったり、違う商品に貼られていたりすることがあります。電子棚札の場合、コンピューターから無線通信で情報が一括で送信されるため間違いが発生しません」
Q.「ダイナミックプライシング」により、価格はどのように推移していくと思いますか。
渡辺さん「家電業界のように価格競争が激しい業界で導入された場合、各企業がAIを使ってネット上の最低価格に合わせるようになり、やがて一番安い価格に一律化するのではないでしょうか。そうなると、従来通り価格競争の激しさは変わらず、高い価格では売れない状況になりますから、当然、メーカーや小売の利益は落ちます」
Q.では、消費者が商品を安く購入できる機会が増えるのでしょうか。
渡辺さん「可能性はあります。ただ、安く売るためには、メーカーの原資(費用負担)が欠かせません。メーカーは、大手のように商品をたくさん仕入れてくれる店舗を中心に安く商品を卸しています。しかし、最低価格に一律化されると、仕入れ力のない小売業者はメーカーからの原資が出ないため、安く売ることができず、淘汰(とうた)されていく可能性があります」
Q.もし価格が一律化すれば、店側にとっては厳しい状況になりますね。
渡辺さん「消費者にとって、価格だけを見るとどの店で買うのかはあまり重要ではなくなりますから、ポイントの付与や丁寧な接客、アフターサービスの充実などで差異化を図るしかありません。有効な取り組みの一つは、家電のセット販売だと思います。1つの商品だけを売ろうとすると、AIで価格が一律化されますが、セット販売の場合、店員に値引きの権限を持たせれば価格が一律化しにくく、ある程度差異化を図れるのではないでしょうか。
また、北海道などには『ビッグハウス』というスーパーがあります。このスーパーは昔から『一物三価』という販売手法を採用しています。つまり、1個買うより2個買った方が安い、2個買うよりケースで買うと安いというような、1つの物に3つの価格が存在することで、まとめ買いをすればするほど安く買えるという仕組みです。スーパーやドラッグストアが採用すれば、客単価を上げられます。
例えば他にも、ロイヤルユーザー(同じ店舗を継続して利用するユーザー)を優遇したり、1日に違う種類の商品を10種類以上購入した客への割引など、多様な価格を設定していけばいいと思います。電子棚札をうまく活用することが『ダイナミックプライシング』のポイントになります」
Q.では、電子棚札をどのように活用した方がいいのでしょうか。
渡辺さん「スマホを電子棚札にかざすと、会員価格など、顧客の状況に応じた価格が表示される機能があれば便利です。賞味期限切れ寸前の食品の販売についても、電子棚札を活用できればいいですね。スマホをかざすと『期限切れ4時間前だから値段はいくら』といったように。
商品に値引きシールを貼る作業は手間がかかるので、電子棚札を通じて商品の値引きが設定できるようになれば、食品ロスの軽減につながるのではないでしょうか」
Q.スマホと電子棚札の連動は近い将来、実現しますか。
渡辺さん「十分可能性はあると思います。ロイヤルユーザーが安く買えるとか、一度にたくさん買った方が安くなるとか、多様化した価格の表示が可能になれば、『一物十価』、もっと言えば、『一物百価』も可能になるかもしれません。新たな商売の方法が生まれる可能性があります」
今は、電子棚札は電池交換せずに約5年使えるようになっているのか。以前、電子棚札が導入された店に勤めていたが、15年くらい前は数か月程度で電池切れがよく発生していた。(導入されるときには電池は1年くらい持つと謳われていた記憶があるがうろ覚え。ちなみに、その店はたしか5年くらいで紙の価格表示に戻った。)
あと、記事中に「コンビニの日用品売り場を見れば分かりますが、値札が貼られていなかったり、違う商品に貼られていたりする(中略)間違いが発生しません」(1ページ目)とあるけど、そもそも電子棚札が取り付けられていなかったり、取り付け位置が間違っていれば同じことだから、これらの例を挙げて電子棚札なら間違いが発生しないというのは言い過ぎ。