習ってないからダメ? 子どもが名前を漢字書きしたら「×」、教育に私が覚える違和感
心を込めて考えたわが子の名前に「×」印を付けられ、悲しい思いをした母親がいます。なぜ、そんなことになったのでしょうか。

小学1年の子。自分の名前を漢字で「岩川幸子」と書いたら大きく「×」(バツ)をつけられました。母親が担任に抗議すると、「まだ、漢字は国語の教科書で出ていないので書いてはいけません」。さらに「落とし物をしたときに手元に戻ってきませんよ」とも言われてしまいました。その後、教科書で「川」という字が出てきたら、「いわ川さちこ」と書くように言われました。
わが子が誕生したとき、心を込めて考えた名前に「×」をされ、母親は悲しい思いをしたそうです。
漢字を書いてもよいはずなのに…
文部科学省が定める「学年別配当漢字」。出版社によって教科書に出てくる順は異なりますが、例えば、小学1年なら「80字を教える」と決まっています。一方、学年別配当漢字でなくても、振り仮名を付ければ、その漢字を授業で教えてもよいことになっています。
「岩川幸子」は仮名ですが、小学1年の子が自分の名前を漢字で書いたらバツを付けられたこと、「川」という漢字を習ったら、「川」だけ漢字で書いて、あとは平仮名で書くように指導されたこと、そして、母親の抗議と先生の返答は現実に起きたことです。
同様に、片仮名で「プール」と書いたら、「ぷうる」と書き直すように言われた子どももいます。「カタカナはまだ教えていないから」という主張は、屁理屈(へりくつ)ではないでしょうか。
子どもは漢字の方が覚えやすい
さて、文字の読み方に関していうと、実は平仮名よりも漢字の方が易しいのです。
例えば、次の4種類の文字を「子どもが覚えやすい順」に並べ替えてみてください。どのような順になると思いますか。もし、周囲にまだ文字が読めない2~3歳児がいたら、試してみるのもよいでしょう。
「あ」「中」「虫」「蟻」
この4種類の場合、一人の例外もなく、「蟻」(アリ)の漢字を先に覚えます。それはなぜでしょうか。
平仮名は「音」を表すだけで「意味」を持たない記号です。「あ」を見せられても、具体的な物体は浮かびませんよね。これに対して、漢字は文字に「意味」が与えられています。「蟻」の文字を見ながら、子どもは頭の中に実物の「蟻」を想像できるので、簡単に覚えてしまうのです。
同じ漢字でも、「中」はどうでしょうか。画数が少ないので小学1年生で習いますが、「コップの中」「部屋の中」と、つかみどころがありません。
続いて「虫」はどうでしょうか。「中」よりはイメージが湧きますが、「虫」という名前の虫は存在しないため、「蟻」のようにパッとイメージはできないでしょう。
よって、「子どもが覚えやすい順」の正解は、「蟻」「虫」「中」「あ」の順です。
自分の子どもはまだ幼児だけど「冷やし中華」「山手線」「銀行」などが既に読めている、ということはありませんか。学習塾を経営していた私の経験では、「林檎」(リンゴ)「怪獣」「救急車」「餃子」(ギョーザ)「苺」(イチゴ)「豚」などの漢字は、数回見せただけで覚えてしまうのです。
学校で習っていない漢字はNGという屁理屈が罷り通るというか、漢字の学年別配当に則って、未習漢字はひらがな表記とする規則を厳守しているならば、名札や体操服、水着のゼッケン、その他持ち物の記名についても、
(入学前)
○×ようちえん ばらぐみ いわかわさちこ
(小学校入学・1年生で学ぶ漢字を反映)
○×小学校1年1くみ いわ川さち子
(2年生で学ぶ漢字まで反映)
○×小学校2年1組 岩川さち子
(3年生で学ぶ漢字まで反映)
○×小学校3年1組 岩川幸子
と書かなければならない、ということになります。こちらの例は、当該学年で習う漢字をすべて習った後の状態です。岩川幸子さんならば小3でコンプリートですね。それぞれの漢字を学習したら、漢字変換する、つまり、その都度書き直すのでしょう。ここでは仮に小学校名を○×小学校としましたが、実際には小学校名に使われている漢字についても同じルールかと思います。
逆もまた真なりということで、例えば、夏休み前に「川」「子」「年」を習ったのに、浮輪の裏側に
1ねん1くみ いわ川さち子
と書いたら、「年」はもう習ったのにわからないとみなされ、落第、幼稚園に送り返すと先生に言われるかもしれません。で、もし小学校の学年別漢字配当表にない漢字が含まれていれば、
6年2組 立石美つ子
「津」が小学校で習う漢字の圏外なので、この状態で小学校卒業ということになるのでしょう。