自閉症児の息子は「程度の低い子」 スクール入会拒否の言葉から私が学んだ“伝え方”
知的障害のある自閉症児の息子を連れて、いくつものスイミングスクールを回った筆者。そこで投げかけられた言葉とは。

筆者と息子がモデルとなった、医師の松永正訓(ただし)さんによるルポルタージュ「発達障害に生まれて 自閉症児と母の17年」(中央公論新社)。知的障害のある自閉症児の息子は幼少期、どのスイミングスクールの体験に行っても「入会お断り」でした。そうした中、あるコーチから言われたナイフのような言葉が、今でも忘れられません。
心に突き刺さった言葉
息子が6歳の時の話です。ぜんそくを持つ息子に体力をつけさせたいと思い、スイミングスクールの体験に連れ回していました。
スイミングスクール側からすれば、水は危険と隣り合わせ。大勢の子どもを預かるのですから、落ち着きがない「多動」の傾向がみられる息子に入会許可を出すことはできません。他の生徒にも迷惑がかかります。
ただ、その際の断り文句は、納得できるものから、「そこまで言われなきゃならないの」というものまで、さまざまな言い方がありました。
【A水泳教室】
「せっかくお越しくださったのに、誠に申し訳ございません。発達障害のお子さんは集団行動が取れないので、対象外なのです。入会はお受けできかねます」
【B水泳スクール】
「他のお子さんに迷惑がかかってしまいます。お母さまも、保護者間の人間関係でおつらくなると思います。誠に申し訳ございませんが、お引き取りください」
これらは、とても丁寧な言い方です。とはいえ「結局、うちの子はみんなと一緒にできる子ではないから『入会お断り』なんでしょう」と感じ、悲しくなりました。
しかし、最も心をえぐり取られた厳しい言葉は…
【Cスイミングスクール】
「お母さん、一体何を考えているんですか。こんな程度の低い子、うちで水泳を習えるわけがないでしょう!」
そのスクールは大会に出る選手を養成することで有名だったので、恐らくプライドもあったのでしょう。そこに足を運んでしまった自分もいけなかったのですが、ここまで言われてしまいました。
体験を受ける前、入会許可が下りるように、息子に「コーチの言うことを聞いて、じっとしているのよ。絶対に動いては駄目よ」と何度も言い聞かせました。観覧席から見ていても、息子はその言葉をけなげに守り、それなりに頑張っていました。しかし、他の子どもたちのようにはできず、順番待ちのときにモゾモゾと体を動かし始めました。
すると突然、コーチが息子の腕をわしづかみにして、2階の保護者席まで連れてきたのです。「ああ、もう駄目だ」と悟りました。そのときの息子はというと、急に水中から上げられ、自分の身に何が起こったのか分からないといった様子で、キョトンとしていました。
そして、息子がいる前で、コーチは先述の言葉を言い放ったのです。
「お母さん、一体何を考えているんですか。こんな程度の低い子、うちで水泳を習えるわけがないでしょう!」
私は濡れたままの息子の体をタオルで拭きながら、「よく頑張っていたね。偉かったね。もう帰ろう。コンビニでお菓子を買って、おうちで食べようね」と言うのがやっとでした。「他の子どもは、体験授業に行けば『入会しませんか』と声を掛けられるのに、私たちはこんなふうに言われてしまうんだ」と情けなくなりました。
18年間の子育てで、バスの中で見知らぬおじさんに「しつけがなっちゃいない!」と罵倒されることなどはしょっちゅうありましたが、このコーチの言葉はつらかったです。
コメント