ホークス福岡移転30年、プロ野球チームの「地方進出」はなぜ可能になったのか
1989年のホークス福岡移転を皮切りに、三大都市圏以外のプロ野球チームが増え、人気・実力ともに伸びています。地方進出成功の背景とは――。

6月4日からセ・パ交流戦が始まり、ますます盛り上がりを見せるプロ野球ですが今年は、かつて大阪市に本拠を置いていた「ホークス」球団が福岡市に移転して30年の節目の年でもあります。現在、福岡ソフトバンクホークスは毎年優勝争いに加わる強豪チームとなり、主催試合の入場者数も巨人、阪神に次ぐ人気チームとなっています。ホークス移転後、日本ハムファイターズが北海道に本拠を移転し、新規参入の楽天は仙台市に本拠を構えました。
プロ野球チームの地方進出とその影響、スポーツビジネスの変化について、尚美学園大学の江頭満正准教授に聞きました。
地域への誇りと自信を醸成
Q.プロ野球で三大都市圏以外のチームが増え、人気を得ている理由や背景を教えてください。
江頭さん「背景の一つはテレビ中継の変化です。1990年代までは、地上波で巨人を中心にテレビ放送が行われており、視聴率20%台がコンスタントに出ていました。しかし、2000年代になると、スカパーなどCSによる有料放送が始まり、一方では、2004年の球界再編以降、地上波で20%台の視聴率が取れなくなり、地上波の放送回数が減少しました。これらによって『テレビで巨人戦しか見られない』という状況が変化したことが、大都市以外のプロ野球球団が活況になった理由の一つです。
例えば、石川県民の多くは地元にプロ野球球団がないため、テレビで見られる巨人ファンになるしかありませんでした。広島に魅力的な選手がいても、たまにしか見られないとファンになることは難しい、心理学でいう『単純接触理論』(同じ人やモノに接する回数が増えるほど、その対象に対して好印象を持つ)が作用したと思われます。この単純接触機会について、地上波テレビ中継が少なくなったことで、バランスが変化したことが一つの要因です。
さらに『地域アイデンティティー』の変化があります。1999年にホークスが福岡移転後初めて日本一となって以降、三大都市圏以外の球団がリーグ優勝することが増加しました。福岡県民は大都市の東京、大阪、名古屋に少なからず引け目があり、福岡の球団が大都市の球団に勝利することがうれしかったのです。ホークスの活躍によって、地域への誇りと自信が醸成されたと考えられます」
ホークスの観客動員数はなぜ多い?

Q.地元の人口規模で劣るホークスが、首都圏や関西圏のチームを上回る観客動員をしているのはなぜでしょうか。ホークスほどではないものの、ファイターズやゴールデンイーグルスも多くの観客を動員しています。
江頭さん「理由は『顧客濃度』です。人口1000人中、球場で観戦経験のある『顧客』がいる比率が高いと、該当地域では、その球団の試合を観戦することが『標準的な行為』になります。この比率がある一定のポイントを超えると、急激に浸透してゆきます。
アメリカのマイナーリーグ200球団以上を対象にした研究でこの効果は立証されており、ホームタウンの人口が10万人を超えると逆に観客数が減少することが報告されています。マイナーリーグの球場は3000~7000人規模ですので、プロ野球に置き換えると地域人口200万人程度でしょう。三大都市圏で巨人の試合を球場で見た人に会う確率が低く、福岡でホークスの試合を球場で見た人に会う確率が高いことが、ホークスの観客動員が多い要因の一つと考えられます。ファイターズやゴールデンイーグルスにも近いことがいえるでしょう」
Q.地方でプロ野球球団の経営が成り立つ理由や背景を教えてください。
江頭さん「プロ野球球団の収入は『チケット売り上げ』『テレビ放映権料』『スポンサー収益』『グッズ売り上げ』の4本柱とされています。まず、テレビ放映権収入が増加したことがあります。1990年代は巨人戦1試合1億円、それ以外1000万円以下、パ・リーグ500万円以下と言われていました。これがスカパーをはじめとする新メディアによって、1試合単価は安いものの、全試合が放送されるようになり、球団収益が改善されました。
次に戦力向上があります。いわゆる三大都市圏以外のプロ球団は2013年以降、4球団とも日本シリーズに進出しています。球団の勝敗はニュースとしてメディアが採用します。民間企業ではよほどのことがない限りニュースになりません。しかも、民放、NHK、新聞、ラジオ、WEBメディアとあらゆるメディアが全試合の結果を伝えます。その広告効果は絶大です。
そして、県民は『地元チームが巨人に勝つところを見たい』と、メディアによる試合結果報道を見て思うようになり、球場に足を運ぶ人が増え、チケット売り上げやグッズ売り上げが増えるのです」
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