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五輪、なぜここまで商業化? 贈収賄事件へ発展した背景は?

東京五輪・パラリンピックを舞台に贈収賄事件が起きました。なぜここまで五輪の商業化が進み、贈収賄事件が起きてしまったのでしょうか。識者に聞きました。

逮捕・起訴された高橋治之元理事(2020年3月、AFP=時事、代表撮影)
逮捕・起訴された高橋治之元理事(2020年3月、AFP=時事、代表撮影)

 東京五輪・パラリンピックの大会組織委員会元理事が受託収賄容疑で逮捕・起訴されました。元理事の主導で、東京大会は五輪史上最高額のスポンサー収入を記録したと言われていますが、なぜここまで五輪の商業化が進んだのでしょうか。なぜ贈収賄事件が起きてしまったのでしょうか。スポーツビジネスにも詳しい、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

恣意的なスポンサー選考可能に

Q.そもそも、なぜ五輪の商業化が進んだのでしょうか。

江頭さん「1980年のモスクワ五輪までは、オリンピックは開催国に大きな経済的負担をかけていました。1976年のモントリオール大会では、利払いも含め27億ドルの赤字が発生し、増税によって30年間かけて解消しました。モスクワ大会は共産主義国家(当時)による開催であったため、収支に関する情報は開示されていませんが、モントリオールと同様だったと思われます。

そこで、1984年の大会に1都市だけ立候補した米ロサンゼルスは、立候補時点から民間主導で行い、公費からの支出をしない条例まで作り、住民の不安材料を払拭したばかりでなく、国際オリンピック委員会(IOC)に損失保証までさせています。

ロサンゼルス大会から、スポンサーは1業種1社とし、最も高額を支払う会社がスポンサーとなる方式を採用。テレビの放映権も見直され、人気競技だけ購入することができなくなり、番組提供時間が長くなったことに伴って、放映権料金も値上がりしました。これも同一地域内での入札方式が採られています。結果的にロサンゼルス大会は2億ドル以上の黒字を計上しました。

こうして、オリンピックは、国家の負担ではなく経済効果が見込めるイベントに変身しました。その後、1988年ソウル、1992年バルセロナと、当時IOC会長だったサマランチ氏が、ロサンゼルスの成功策を拡大して、大型化したのです」

Q.五輪のスポンサーになることは、企業にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

江頭さん「ロサンゼルス大会から1業者1社になったことで、世界中で広告効果が出せるようになりました。ロサンゼルス大会の公式スポンサーになった富士フイルムは、アメリカの会社であるコダックを抜き、世界的な品質であると消費者に訴求することに成功しました。時計のオメガは1932年から公式時刻計測を行い、その性能を世界中が信用しています。

この『世界中』という点がポイントで、世界人口の45%を占めるBRICsでもオリンピックは放送されており、ワールドワイドパートナーになると、全世界に該当業種のトップブランドであることが知れ渡り、企業の知名度アップ、業績向上が期待できます」

Q.スポンサーの「1業種1社」の原則が東京大会では崩れたように思います。

江頭さん「ワールドワイドパートナーに関しては、1業種1社のルールは守られています。しかし、日本国内に限定したスポンサーに関しては、NECはパブリックセーフティー先進製品とネットワーク製品に関して、富士通はデータセンターパートナーに関してと、業種の分類が厳格さに欠けていると思えるようになりました。

さらに東京大会では、みずほ銀行(銀行)、三井住友銀行(SMBC)(銀行)と、同業種としての表記を堂々と行っています。これに関しては、日本オリンピック委員会(JOC)と、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会からマーケティング専任代理店に任命された電通が、IOCを説得した可能性があります。

この1業種1社方式を見直したことが成功要因の一つであると、大会報告書には記載されています。次に挙げるのが、その記述です。『過去のオリンピック・パラリンピック競技大会においては、一部の限られた例外を除いて、原則1業種1社であった。一方で、東京2020 大会もその原則は維持しつつ、希望企業が複数社あった場合には、競合する希望企業全社が合意し、かつIOCが承認した場合は、同一カテゴリー(業種)であっても参加を可能とした』

また、『オリンピック・パラリンピック競技大会のマーケティング活動の実務に長(た)けた民間事業者の知見を活用するため、IOCとの合意の下、専任代理店を選任した』ことが『大会のマーケティング活動の進展に大きく貢献した』とも記載されています」

Q.なぜ贈収賄事件が起きてしまったのでしょうか。

江頭さん「電通は、東京開催が決まった2013年、東京五輪招致委員会の口座に約6億7000万円を寄付し、さらに日本陣営の代表として、開催都市決定への投票権を持つ人物にロビー活動を行い、IOC規約の『中立性』に抵触しかねない動きをした、とロイター通信が報道しました。

電通は、1982年にアディダス社51%電通49%出資で『インターナショナルスポーツアンドレジャー(ISL)』を設立し、1984年にはIOCの国際マーケティング権を取得しています。その後ISLは主なスポーツの世界的大会のビジネス面を支援していきました。だがISLは大会を招致するためのロビー活動に使う水面下での資金提供など、影のうわさも多かったのです。

今回の大会スポンサーに関する贈収賄は、ISLの設立時代から電通がIOCに近づき、2020東京大会で満を持してJOCの専任代理店になり、1業種1社の入札方式から、『競合する希望企業全社が合意し、かつIOCが承認すれば可』にルールを変更したことにより、恣意(しい)的なスポンサー選考が可能になったことが原因と考えられます」

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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