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逆転Vかかった名勝負も…「ダブルヘッダー」24年ぶり開催か? そもそも、なぜなくなった?

コロナ禍でプロ野球の試合中止が相次ぎ、近年は実施されていなかった「ダブルヘッダー」の可能性が指摘されています。なぜ、かつてはダブルヘッダーでの試合が必要で、近年はなくなっていたのでしょうか。

再開された巨人戦。新型コロナ感染者続出で6試合連続中止となっていた(2022年8月、時事)
再開された巨人戦。新型コロナ感染者続出で6試合連続中止となっていた(2022年8月、時事)

 コロナ禍でプロ野球の試合中止が相次ぎ、近年は実施されていなかった「ダブルヘッダー」の可能性が指摘されています。実現すれば「プロ野球では1998年以来」とされますが、そもそもなぜ、かつてはダブルヘッダーでの試合が必要で、近年はなくなっていたのでしょうか。プロ野球の世界にも詳しい、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

選手のコンディションを重視

Q.そもそものダブルヘッダーの意味と、なぜ昔は多く行われていたのか、教えてください。

江頭さん「ダブルヘッダーは、ホームチームが1日で2試合行うことを言います。日本プロ野球に関して言えば、1960年代ごろまではプロの試合を開催できる球場が少なく、ドーム球場もなかったために、シーズン終盤にしばしばダブルヘッダーが行われていました。

対戦する2チームが同じまま2試合行うケースを、『ダブルヘッダー』と称し、ホームチームは同じものの、同日開催の2試合で対戦相手が変わる場合は『変則ダブルヘッダー』と呼んでいました。基本的には、1試合のチケット代金で2試合の観戦が可能でした。

ダブルヘッダーとは異なりますが、商業的に後楽園球場で、午後4時から日本ハム戦、午後7時から巨人戦を行ったという事例もあります。後楽園は観客を集めやすく、異なるリーグ開催のため、チケットも別々に販売していました。

メジャーリーグの場合は、現在でもダブルヘッダーは珍しくありません。西海岸と東海岸では時差が3時間あるほど離れているため、悪天候などで中止になった試合について、同一チームが再び同じスタジアムで対戦する際、1日に2試合開催する必要に迫られて、行われることがあります。

この場合、デーゲームとナイトゲームで開催され、観客も入れ替え制となるため、旧来からのダブルヘッダーの概念とは少し異なります。

アメリカでは1970年代まで、全日程の10%ほどがダブルヘッダーで計画されていました。移動コストを考慮し、週末開催を重視するためでした。しかし投手の5日間隔のローテーション確立など、プレーヤーのコンディションが重視され、現在ではゲームスケジュールを作成する段階で、1日2試合開催は計画されなくなりました。

メジャーリーグのダブルヘッダー最多記録は、1943年のシカゴ・ホワイトソックスの年間44回。連続記録は9回で、ボストン・ブレーブスが1928年に12日間で18ゲーム行っています」

Q.近年、プロ野球でダブルヘッダーが行われていなかったのはなぜでしょうか。

江頭さん「選手のコンディションを重視していることが最大の理由です。日本プロ野球の場合、通常1週間で6試合開催です。この日程でも、真夏の30度を超す球場で野球を行うことは、体への負荷が高いのが現状です。

空調が整ったドーム球場が増えたとはいえ、筋肉をはじめとして疲労の蓄積は避けられません。その実態が、スポーツ科学の進歩とともに、はっきりしてきたからです。プロ野球選手は、消耗品ではありません。類まれな才能に恵まれた特別な人材であり、1人の選手が15年、20年と活躍することは、球界全体にとっても重要なことです。

さらに、ドーム球場が増えて雨天中止となる試合が全体的に減り、ゲーム消化がしやすくなったこともダブルヘッダーがなかった理由の一つです」

Q.ダブルヘッダーが行われる場合、通常の試合と違いがあるのでしょうか。

江頭さん「監督の考え方によるでしょう。主力選手に2試合行わせることで、2試合とも勝利を狙うのか。1試合に主力を集中させ、2試合目を若手中心で構成し、育成に主眼を置くのかで、全く異なります」

Q.ダブルヘッダーの見どころを教えてください。

江頭さん「ダブルヘッダーで球史に残る名勝負と言われる、1988年10月19日のロッテ対近鉄戦の記録を確認しました。この2試合に連勝すれば近鉄の逆転リーグ優勝が決まる状況でしたが、どちらか1試合でも引き分ければ、優勝を逃すという最後の2試合でした。優勝を争っている西武ライオンズは既に全日程を終えていて、近鉄の結果次第でした。

1試合目と2試合目の間隔は、わずか23分。1試合目3時間21分、2試合目4時間12分という過酷なものでした。結果は1試合目が4対3で近鉄勝利。2試合目が4対4、10回時間切れ引き分けで、近鉄は優勝を逃しました。

優勝を懸けて試合した近鉄の監督は、故・仰木彬氏でした。仰木監督の采配は、一試合も落とせないため、必要に応じて代打や代走で選手を起用する総力戦をしています。ストライク1つで、優勝の行方が変わる重要な試合でした。

この試合の仰木監督采配から見えることは、『専門家』の存在です。レギュラーには総合力が求められますが、代走や代打、外野フライでタッチアップを許さない堅守の選手など、レギュラーよりピンポイントで能力が勝る選手が存在しているかどうか。そしてその専門家が、急な出番でも100%のパフォーマンスが発揮できるかです。

プロ野球は、興行です。観客を楽しませ、素晴らしいパフォーマンスを見せ、勝利するのが目標です。今季、ダブルヘッダーが久しぶりに行われるのであれば、ダブルヘッダーならではの、面白い采配をしてくれることを、監督陣に期待します。ワクワクするダブルヘッダーが見たいですね」

(オトナンサー編集部)

【伝説の「10・19」】ダブルヘッダーを戦い抜いた近鉄の仰木彬監督と選手たち

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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