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目黒女児虐待死の衝撃 「連れ子」に対する虐待はなぜ起こるのか、専門家が実例で解説

「止めたくても止められなかった」

 マキ(13歳・仮名)も、母親の再婚相手から厳しい「しつけ」という名の虐待を受けていました。

 部活から帰宅し、疲れて居眠りしてしまうと、「勉強をサボるな!」とたたき起こされ、殴られていたといいます。

 勉強ではなく、友達とメールをしたり、漫画を読んだりしているところを見つかると、「言いつけを守らなかった」と、いつも以上に殴られたり蹴られたりしたそうです。

 顔を殴られ、傷だらけで登校してきたマキの姿を見た校長先生によって通報され、マキは児童相談所に保護されました。継父は「父親として認められたかった」「自分は家族のために頑張っているのに言うことを聞いてもらえず腹が立った」と話していました。

「同じ家の中にいる母親は何をしているのか」「なぜ自分の娘を守ってあげないのだ」と思う人も多いことでしょう。

 たいていの母親は、「止めたくても止められなかった」と泣いてしまいます。

 母親の負い目と継父の気負いに加え、「もう結婚に失敗したくない」という思いなども重なり合ってしまうと、夫に強く出ることができなくなってしまうのです。

 再婚後、血のつながっている母親の方が、積極的に虐待を行ってしまうケースもあります。

 タイガ(6歳・仮名)は、4歳の妹と一緒に深夜のコンビニで万引きをしようとしているところを保護されました。

 おなかを空かせ、薄汚れた洋服を着ていることなどからネグレクト(育児放棄)を受けていることは明らかでした。

 警察の取り調べに対し、母親が語った虐待の理由は、「子どもの顔が前の夫に似てきたから」。

 正直、私も同僚も「やっぱり」と感じました。

 再婚家庭で、実の母親が主導となって虐待を行っている場合、「新しい男性との生活で、元夫に似た子どもの存在が疎ましくなる」というパターンは珍しくないのです。

 タイガの母親は元夫にDVを受けていました。離婚後、新しい男性に出会い、幸せな家庭を築こうとしているところに、憎き元夫の面影を感じる子どもがご飯をこぼしたり、いたずらをしたりして、自分の手をわずらわせる…。そうすると、イライラして「子どもさえいなければ」という思いが募り、久しぶりに与えるご飯にせっけんの粉を振りかけて食べさせようとしたこともあったそうです。

 そんな母親のことも、タイガはかばい続けていました。

 私たちが「お母さんは?」「ご飯食べた?」などと問いかけても、「うん」と首を縦に振って、精いっぱいのうそをつこうとするのです。

 虐待されている子どもは、虐待されていることを自ら話そうとはしません。年齢のわりに妙に大人びたところがあり、警察や児童相談所の職員に、ピタッとくっついてきたり、話をとりなそうとしたり、ごまかそうとしたりします。

 幼いなりに、母親や新しい家庭を必死で守ろうとしているのです。その姿はけなげではありますが、とても哀れで痛ましく、涙が出てしまいます。

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上條理恵(かみじょう・りえ)

少年問題アナリスト

少年問題アナリスト、元上席少年補導専門員、東京経営短期大学特任准教授。小学校、中学校、高校講師を経て、1993年より、千葉県警察に婦人補導員として、青少年の非行問題(薬物問題・スマホ問題・女子の性非行)・学校との関係機関の連携・児童虐待・子育て問題に携わる。学会活動として、非行臨床学会の会員としての活動も行う。小中学生、高校生、大学生、保護者、教員に向けた講演活動は1600回以上に及ぶ。

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