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入浴は週1回、カビ臭い自室…ひきこもり30歳長男 「障害年金」停止に 社労士が考える“決定的要因”

障害基礎年金を再開させるためにすべきことは?

 当時の状況を話し終えた母親は、不安そうな表情を浮かべて言いました。

「長男は、もう二度と障害基礎年金を受給することができないのでしょうか」

「それは何とも言えません。障害基礎年金が再開されるかどうかは国の判断によるからです。とはいえ、行動しなければ何も変わらないため、こちらでやれるだけのことをやってみるしかないでしょう。具体的には、息子さんの日常生活の様子を医師に伝えてみて、再度、診断書を作成してもらえないか、お願いをしてみることになります」

 その後、私は次のように念を押しました。

「なお、息子さんの日常生活の様子は口頭で伝えるだけでなく、文書にまとめて医師に渡すとよいでしょう」

 そして、現在の長男の日常生活がどのようになっているのかを母親から聞きました。

 長男の食事の準備は、母親がすべて行っているといいます。長男は食欲があまりないため、朝は食べず、昼は小さめのおにぎりを1個食べられれば良い方だということです。夜はおかずと汁物を少しだけ食べています。

 入浴もほとんどできておらず、週に1~2回、シャワーを少し浴びる程度。歯磨きも毎日できておらず、同じ下着を着続けることも珍しくないそうです。

 母親は長男の体臭や口臭が気になり苦言を呈することもありますが、おっくうな気分が勝ってしまうためか、行動を改めることはできていないといいます。

 長男の部屋の布団は敷きっ放しで、カーテンは閉めたまま。窓を開けることもないので、部屋の空気は湿っぽく、カビのような臭いがしているそうです。部屋の片付けや掃除はできないため、月に1回程度、母親が掃除をしています。

 長男は1日のほとんどを自分の部屋で過ごしており、日常生活に必要な物はすべて母親に買ってきてもらっています。

 このような話だけでも、現在の長男の日常生活がいかに困難であり、母親の援助がなければ成り立たない様子なのかが伝わってきました。

 母親から聞き取った内容を書き終えた後、私は最後にこう言いました。

「まずはお母さまから今回のお話を息子さんにお伝えいただき、同意を得るところから始めてみましょう。同意が取れた後、さらにヒアリングを重ね、私の方で息子さんの現在の日常生活の困難さを文書にまとめます。その後、息子さんに受診を再開してもらい、医師に現在の状況を伝えるようにしましょう。医師の同意が得られれば、私も受診に同席いたします」

「それはとても心強いです。ぜひお願いいたします」

 そう答える母親の様子が少し明るくなりました。

 私との面談後、母親が長男と医師に事情を話し、それぞれから同意を得ることができました。何とか受診を再開させた長男は、母親と私の同席のもと、医師に状況を伝えました。所々、母親や私のフォローも入れつつ、日常生活の状況をまとめた文書を医師に渡しました。

 医師は丁寧に話を聞いてくれ、長男の困難な現状を反映した診断書を作成してもらうことになりました。後日、医師から診断書を入手した後、私は年金事務所に診断書のほか、「老齢・障害給付 受給権者支給停止事由消滅届(障害年金再開の請求書)」「障害年金の年金証書」の3点を提出しました。

 請求から3カ月がたった頃、母親から連絡がありました。

「おかげさまで、障害基礎年金が再開される旨の通知が届きました。このたびはご協力いただき、本当にどうもありがとうございました。もう二度と受給できないのではないかと心配していましたが、やっと安心することができました」

 母親からの報告を受け、私は非常にうれしく思いました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

【画像】どんな書類が必要なの? これが「障害基礎年金」の“受給要件”です

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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