44歳ひきこもり長男が「自閉スペクトラム症」と診断…先行き見えず、途方に暮れる母に差し伸べられた“救いの手”
発達障害があるひきこもりの人の障害年金を請求する手順について、社労士が紹介します。

筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気などで就労が困難なひきこもりの人を対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。
浜田さんによると、障害年金の請求に必要な書類の一つに、「病歴・就労状況等申立書」というものがあるといいます。病歴・就労状況等申立書には発病から現在までの状況を記載する必要があるとのことです。
発達障害や知的障害があるひきこもりの人とその家族が障害年金を請求する場合、ルール上、幼少期から現在までの状況を記載しなければならないといいます。そのため、どのような区分けで、何を書けばよいのか、困ってしまう家族が多いケースが想定されます。ひきこもりの40代男性とその母親の事例について、浜田さんが紹介したいと思います。
ミスを繰り返し仕事が長続きせず
ひきこもりの人の中には、発達障害を抱えているケースもよく見受けられます。44歳の早川勤さん(仮名)もその一人でした。
勤さんは18歳で高校を卒業した後、大学には行かずにパン工場に就職。しかし、仕事はまったくうまくいかなかったといいます。「何度注意されても発送先や発送数を間違える」「作業がとても遅い」といったことで上司から毎日叱られてばかり。そんな日々に嫌気が差し、勤さんは3カ月ほどで退職してしまいました。
その後はコンビニエンスストアや居酒屋でアルバイトをすることもあったそうですが、やはり作業が遅い、ミスを繰り返すといったことで叱られてばかり。そのようなことで働くことに心底嫌気が差してしまった勤さんは、20歳ごろからひきこもるようになってしまいました。
仕事もせずに家にいる勤さんに腹を立てた父親は「いつまでフラフラしているんだ。いいかげん働け!」と大声で怒鳴ることもありました。
当時、勤さんは20代で若かったためか、感情的になることも多かったそうです。父親の発言に「うるせぇ」と怒り出し、壁を殴る蹴るなどの行為がたびたび見られたということです。時には父親と取っ組み合いのけんかをすることもあったそうです。そのような出来事があっても、勤さんは仕事に就くことは一切ありませんでした。
いつしか父親も諦めの境地に達してしまったようで、何も言わなくなってしまったそうです。
そして20年の月日が流れました。
勤さんが40歳になってもひきこもりが改善しないことを心配した母親は、ひきこもりの家族会に参加するようになりました。そこで母親は障害年金の存在を知ることになったのです。
「ひょっとしたら、うちの子も障害年金が受給できるのではないか」
そう思った母親は、勤さんを何度も説得し、精神科を受診させました。精神科医による問診や検査の結果、勤さんは発達障害(自閉スペクトラム症)と診断されました。勤さんが42歳のときでした。
勤さんの国民年金保険料は父親が納め続けているということです。そのため、障害基礎年金を請求することが可能です。障害年金は、初診日から1年6カ月を経過した日以降に請求できます。勤さんの初診日は42歳ごろになるので、44歳になった現在、いつでも障害年金が請求できることになります。
しかし、ここで大きな問題が発生しました。病歴・就労状況等申立書にどのようなことを書けばよいのか、母親が困惑してしまったからです。先に進むことができなくなってしまった母親は、私に相談しに来ました。
面談の席で母親は言いました。
「なぜ幼少期から書かなければならないのでしょうか。長男は42歳ごろに初めて精神科を受診したので、そのときから書けばよいのではないでしょうか」
「残念ながらそれでは駄目です。病歴・就労状況等申立書は発病から現在までの状況を記載するルールになっているからです。発達障害は生まれつきの脳の障害とされているため、発病は生まれたときになってしまうのです」
「そうなんですね…。長男は現在44歳ですから、44個に分けて作成することになるのでしょうか」
「1年ごとに作成する必要はありません。幼少期から作成する場合、小学校入学前、小学校、中学校、高校、大学や専門学校、社会人といったような区分けで大丈夫です。息子さんの場合、小学校入学前、小学校、中学校、高校、社会人(ひきこもっていた期間も含む)、42歳の初診から44歳の現在までとなります。なお、社会人の期間は長期間あるので、ルール上、おおむね5年ごとに分けて記載する必要があります」
「最近の状況なら何とか書けそうですが、40年以上前の話なんて何を書けばよいのでしょうか」
「その障害により『日常生活や学生生活にどのくらいの困難さを抱えていたのか』を書いていきましょう。とはいえ、何をどのように書けばよいのか困ってしまいますよね。もしよろしかったら私がご質問するので、それにお答えいただければ、私の方で下書きや清書をします。ご安心ください」
私はそう言いました。









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