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30歳ひきこもり男性、うつ病で「障害年金」受給 それでも母が“不安視”するワケ

障害年金を受給している場合、原則として数年に一度、更新の手続きをする必要があります。更新時の手続きの方法や注意点について、社会保険労務士が解説します。

障害年金を受給している場合、数年に一度、更新の手続きが必要(画像はイメージ)
障害年金を受給している場合、数年に一度、更新の手続きが必要(画像はイメージ)

 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気や障害で就労が困難なひきこもりの人などを対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 浜田さんによると、障害年金を受給している場合、原則として1~5年の間に一度、更新の手続きをする必要があるということです。障害年金を受給できるようになったばかりの家族の中には、初回の更新手続きの仕方がよく分からず、不安を抱えているケースもあるといいます。そこで、障害年金の更新の方法や注意点について、浜田さんが解説します。

更新手続きに戸惑う母

 長年のひきこもり生活でうつ病を発症してしまった、30歳の狭山健一(仮名)さん。

 私が障害年金の請求を手伝ったこともあり、無事、障害基礎年金を受給することができました。

 その後、健一さんの母親(62)から私は次のような質問を受けました。

「障害年金には更新の手続きがあると聞きました。息子の場合、更新の手続きはいつごろになるのでしょうか。また、どのような書類が必要になるのでしょうか」

 更新の手続きをしたことがない母親は、不安そうな表情を見せました。そこで、私は順番に説明しました。

「まずは『初回の更新がいつごろになるのか』を確認するようにしましょう。初回の更新時期は、年金証書の右下に記載されています。『次回診断書提出年月』という欄に初回の更新年月が書かれていますので、それで知ることができます」

 私はスマホを操作し、画面に年金証書の見本を映し出して母親に見せました。

「この書類は見たことがあります。障害年金が認められたときに送られてきた書類ですよね。自宅に戻ったらすぐに日付を確認してみます」

「では、次に『更新に必要な書類』も確認しましょう。それは診断書です。更新用の診断書は『障害状態確認届』というもので、提出期限の3カ月前の月末ごろに日本年金機構から送られてきます。仮に初回の更新年月が2026年9月だとすると、2026年6月末ごろに送られてくるということです」

 すると母親は次のように質問しました。

「障害年金の請求では初診日の証明書や申立書など、たくさんの書類を提出しましたよね。更新の手続きではそれらの書類は必要ないのでしょうか」

「はい、必要ありません。障害状態確認届を医師に記入してもらい、提出月の月末までに日本年金機構に届くように返信すれば大丈夫です。ただし注意点もあります。障害状態確認届の記載内容が軽めになっていると、障害年金が支給停止されてしまうこともあるからです」

「息子の障害基礎年金が止められてしまうのは困ります。対策はあるのでしょうか」

 母親は再び不安な表情を見せました。

「担当医」「病院」変更時は要注意

 担当医が変わったり、病院を変更したりした場合は少し注意が必要です。その医師に日常生活の困難さがしっかりと伝わっていないと、診断書の記載内容が軽めになってしまう可能性があるからです。

 そこで、私は対策についても説明しました。

「更新時期が近づいてきたら、担当医に『息子さんの日常生活の困難さを伝えておく』とよいでしょう。伝えるのは口頭でもよいですが、文書の方が望ましいです。文書としては、例えば次のようなものがあります」

■更新時期の障害状態が以前とあまり変わらない場合
障害年金の請求で国に提出した診断書のコピーを医師に見てもらう方法があります。そして、医師に「現在も当時と同じような障害状態にあります」と伝えてみましょう。

■当時の診断書のコピーがない、または更新時期の障害状態が以前と比べて悪化している場合
更新時期の日常生活の困難さを文書にまとめます。日常生活の困難さを示すには、次の7項目にどのような問題があるのか、説明する必要があります。

(1)適切な食事
(2)身辺の清潔保持
(3)金銭管理と買い物
(4)通院と服薬
(5)他人との意思伝達および対人関係
(6)身辺の安全保持および危機対応
(7)社会性

 そこまで説明を聞いた母親は、疑問を口にしました。

「更新の審査の結果、もし支給停止されてしまったら、息子は二度と障害基礎年金はもらえないのでしょうか」

「そのようなことはありません。仮に障害状態が軽快したと判断されて障害基礎年金が支給停止されてしまっても、その後に障害状態が悪化したら再審査を受けることはできます」

 その後、私は再審査に必要な書類を母親に説明しました。

「再審査に必要なものは、息子さんの場合、『診断書』『老齢・障害給付 受給権者支給停止事由消滅届』『年金生活者支援給付金請求書』になります。再審査の結果、障害状態が障害基礎年金に該当するくらい重いと判断されれば、そこから障害基礎年金を受給することができます」

「そうなのですね。仮に支給停止されてしまっても再チャレンジはできるのですね。少し安心しました」

「もし更新の手続きについてご不安があるようでしたら、障害状態確認届が届いた際に私にご連絡ください。何かお手伝いできることがあるかもしれません」

「それは助かります。ぜひお願いしたいと思います」

 母親はほっとした表情でそう答えました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

【要注意】「えっ…!」これが「障害年金」が受給できない“事例”です

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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