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うつ病の25歳ひきこもり女性 就労困難なのに「障害年金」請求できない!? 社労士が明らかにした“制度の盲点”

精神疾患で障害年金を請求する際、初診時と請求時とで診断名が違っていた場合、同一疾病と見なされ、手続きが複雑になることがあります。その場合の障害年金の請求方法について、社労士が解説します。

精神疾患で障害年金を請求する際の注意点とは?
精神疾患で障害年金を請求する際の注意点とは?

 筆者のファイナンシャルプランナー・浜田裕也さんは、社会保険労務士の資格を持ち、病気や障害で就労が困難なひきこもりの人などを対象に、障害年金の請求を支援する活動も行っています。

 障害年金は原則、その障害で初めて病院を受診した日、いわゆる初診日から1年6カ月を経過した日以降に請求することになっています。ただ、浜田さんによると、ある医療機関で適応障害と診断されたものの、初診日から1年6カ月が経過しても障害年金を請求せず、その後、別の医療機関でうつ病と診断されるなど、初診日と現在とで診断名が異なる場合、同一疾病と見なされ、初診日が過去にさかのぼってしまうことがあるといいます。その場合、障害年金の請求時期が変わってしまい、手続きが複雑になるということです。

 特に精神疾患の場合、2つの病気が別疾病ではなく同一疾病と見なされてしまうケースが比較的多いため、注意が必要だといいます。抑うつをきっかけにひきこもるようになった20代女性をモデルに、浜田さんが解説します。

愛猫の死で症状が悪化

「長女がうつ病と診断されたので、障害年金の請求を検討しています」

 そのようなことで相談に訪れた母親から、私は事情を伺いました。

 当事者は25歳の柴山里香(仮名)さんです。里香さんは大学生の頃、将来への大きな不安からか、心身の不調を母親に訴えるようになりました。その後、抑うつ状態になったといいます。

 抑うつの影響で体調が優れないため就職活動もうまくいかず、就職できないまま大学を卒業。卒業後は自室で静かに過ごすようになったそうです。体調が悪そうな里香さんを心配した両親は、しばらく様子を見ることにしました。

 里香さんが24歳のとき、ある大きな出来事が起こりました。幼少期の頃から飼っていた愛猫が死んでしまったのです。

 里香さんの大切な家族であり、一番の理解者だった愛猫を失ったことで、里香さんの体調は急速に悪化。表情が乏しくなり、食事もろくに取れなくなってしまいました。

「心の傷は時間が解決してくれるだろう」

 両親はそのように思っていましたが、里香さんの抑うつ状態が一向に改善することはありませんでした。

 両親は新しい猫を飼うことも提案しましたが、里香さんは「もうこれ以上大切な家族を失う経験はしたくない」といって拒否。里香さんは一日のほとんどを自室のベッドで横になって過ごすようになってしまいました。

 心配した母親は、里香さんを何度も説得し、近所の精神科を受診させました。そこでうつ病の疑いがあるという診断を受けました。

 その後も月に1回程度の受診を続け服薬治療を継続していますが、症状はあまり改善していません。そのため、就労も難しいとのことです。

 うつ病と診断されてからもうすぐ1年6カ月を迎えるので、そろそろ障害年金の準備に取りかかりたいというのが母親の要望でした。

 私はふと気になったので、念のため次のような質問をしました。

「お嬢さまは大学生のときに心身の不調を訴えるようになったそうですが、その頃に精神科や心療内科を受診したことはなかったのでしょうか」

「大学生だった21歳ごろに心療内科を受診したことはあります。ですが、当時は適応障害と診断されました。しかも2~3回ほど通っただけで通院をやめてしまいました。今回、うつ病と診断された精神科は別の病院ですし、病名も違いますからまったく関係ありませんよね」

「実は無関係ではありません。そうなるとお嬢さまの初診は21歳ごろに受診した心療内科になってしまいます」

「それはどうしてですか」

 母親は間違いを指摘されたと感じたのか、その声は尖っていました。そこで、私はできるだけ穏やかな口調で説明しました。

「適応障害とうつ病はどちらも心のご病気(精神疾患)です。障害年金のルール上、適応障害と診断された後にうつ病と診断された場合、適応障害が悪化してうつ病を発症したと見なされます。つまり、2つの病気は別疾病ではなく同一疾病と見なされるのです。よってお嬢さまの初診は21歳ごろになってしまうのです」

「そのようなルールがあるのですね。知りませんでした。では、娘はいつ障害年金を請求すればよいのでしょうか」

「それを説明するためにはもう少し情報が必要になります」

 私はそう言い、母親からさらに必要な情報を聞き取りました。

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浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

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