「銃の音、聞いたことあるんか?」…拳銃を懐に忍ばせた“支離滅裂”な訪問者〜実録・ボディーガード体験談
明確にされた「殺意」
午後9時をやや過ぎた頃、Zは1人で姿を見せました。年齢は40歳前後で中肉中背、やや長めのボサボサ頭で、暑い時期なのにカーキのサファリジャケットを着ています。その下に、隠したい“物”があるのかもしれません。
彼は、着座するなり話を始めましたが、社長の言うように内容は支離滅裂です。しかし社長は、Zの機嫌を損ねないよう言葉を選びながら、「あなたには100万円ほどを貸し付けているが、それはなかったことにさせてください。それとは別に、退職金として50万円払います」と説明しました。簡単な内容の話ですが、素直に「YES」と言いたくないのか、それとも読解力が足りないのか、Zに話が通じません。
1時間ほど同じ話を繰り返した頃、「ところでおまえ誰だ!」と急に私へ矛先を向けてきました。「秘書です」と答えると、「おまえみたいな秘書がいるか!」と、もっともな言葉を返してきました。そんなこんなで、中身のないやりとりが2時間ほど続いたと思います。さすがにこれ以上は時間の無駄です。
社長からは切り出しにくそうなので、私からお引き取り願おうと思った矢先、別の従業員が乱入してきました。後で聞いたところ、Zの舎弟的な男だそうです。男は、Zに向かって「そいつ(私)は社長が雇った用心棒じゃ!」といったことを叫びました。彼は在職中だったので、私が何者かを誰かに聞いたのでしょう。
そしてZは、私の拳にできたたこを見て「おまえ空手屋だろ!?」と言いました。私は「空手“屋”?」と思いましたが、笑っている場合ではありません。Zの目付きが変わったからです。一瞬で場の空気が張り詰めます。
さらに、Zは「おまえが誰でも関係ねえけどな」と余裕を見せながら、「指1本でやれるからよぉ」と言い、人さし指で引き金を引くしぐさをしながら、左の懐をポンとたたきました。ジャケットの奥にチラッと、銃のグリップらしきものが見えます。話に聞いていた銃の存在をリアルに認識しました。
もしも懐に、本物の銃があるとしたら、言葉や動きを一つでも間違えると命取りです。はっきりと銃を見せたわけではありませんが、Zは殺意を明確にしています。「本物の銃なのか」「Zがどう出るのか」をのんきに待つ必要はありません。隙があれば、こちらから攻撃を仕掛けるべきです。
相手との距離は、テーブル越しで1.5メートルほど。飛びかかれば確実に手の届く距離、それなのに動けないのです。実際はあり得ないのですが、「飛びかかるよりも先に撃たれるんじゃないか…」など、最悪な想像が頭をよぎります。着ている防弾チョッキも頼りに思えません。

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