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警戒対象は暴力団…自宅と家族を守る「私邸警備」の生々しい実態〜実録・ボディーガード体験談

ドラマや映画でよく描かれるものの、実際はあまり知られていない「ボディーガード」の仕事。今回は、暴力団から脅迫を受けていた会社役員の「私邸警備」案件について語ります。

私邸警備の実態とは…(画像はイメージ)
私邸警備の実態とは…(画像はイメージ)

 機械による警備ではなく、人の手で在宅中のクライアントを守ることを「私邸警備」と呼びます。一般人よりも、会社役員や著名人からの依頼が多い案件です。今回は、ボディーガード歴18年のIさんが実際に体験した、ある経営者の私邸警備中の出来事をご紹介します。(個人情報保護の観点から、会話の内容などに一部アレンジを加えています)

銃弾を撃ち込まれる可能性にも警戒

 10年以上前、複数の暴力団から脅迫を受けていた企業を警護したときの話です。その企業では3人の役員に対して、1人ずつボディーガードがついていました。しかし、警護がつくのは仕事のときだけ。それ以外の時間に狙われないとは限らない上、自宅にはご家族がいます。危険度の高い案件の場合、家にも警護が必要なのです。

 この案件では、各役員の自宅に警護が2人ずつ、24時間常駐していました。交代を入れると1日に12人が必要になります。これは比較的規模の大きい依頼です。

 私邸警備では、警備会社が車を用意し、そこから監視するのが一般的な方法です。その際、鍵となるのが車を止める場所です。近隣の迷惑にならず、自宅を一望できるポイントが理想です。自宅の敷地内に場所を提供していただくケースもありますが、多くの場合は路上に停車します。従って、いいポジションが見つからないケースも少なくありません。そして当然ですが、定期的に移動するなどして道路交通法を守りながら行う必要があります。

 しかも私邸警備の期間は、長ければ半年以上。近所に、黒スーツの男が毎日車を止めていたら、誰でも不審に思うでしょう。多くの人は不安を感じて110番通報します。そのため、所轄の警察署と近隣へのあいさつは必須です。警備が不審者扱いされたら元も子もありませんし、何よりクライアントに迷惑がかかるからです。

 実際に20年ほど昔、私邸警備中のボディーガードが、パトカー数台と7~8人の警官に取り囲まれたことがありました。何でも、近隣から「銃を持ったヤクザが車を止めている!」と通報があったとか。実際には拳銃を持っていませんでしたが、腰の警棒を拳銃と見間違えたか、もしくは通報者が話を盛ったか…。誤解は解けたものの、依頼人の立場を考えると“失態”です。このように、私邸警備はとにかく多くの人の目に触れやすいので、配慮が足りないと成立しないのです。

 先述したように、この案件の警戒対象は暴力団です。しかしこのときは、クライアントの命が狙われるほど危険な段階ではありませんでした。ただし、暴力団による過去の手口を見ると、脅迫として銃弾を撃ち込まれる可能性は十分考えられました。それに、彼らは安全確認などろくにせず発砲します。威嚇の流れ弾が、人に当たる可能性も十分にあるのです。相手に殺意があろうがなかろうが、実弾による銃撃は、受けた人に大きな精神的ダメージを与えます。

 私邸警備では、負傷者を出さないというのが前提ですが、銃弾を撃ち込まれた時点で大失態なのです。そのためにも、「警護しているぞ!」とアピールすることが時に必要です。しかし、過度なアピールは威圧感を伴います。特に住宅街で行う場合、ご近所に不快感を与えるわけにはいきません。門の前に仁王立ちして目を光らせることは、よい方法ではないのです。

 ただし、狙う方もバカではありません。襲撃の前には下見をし、入念に計画を練ります。その際に、ターゲット宅に黒スーツが乗った車が止まっていれば、必ず目に入ります。アピールしなくても、狙う側は警備に気付くのです。つまり、ボディーガードが肝に銘じるべきなのは、「威圧感」ではなく「隙のない体制」です。正しい警護はそのまま攻撃の抑止につながります。

 さて、前置きが長くなりました。私は役員のボディーガードを兼任していたので、私邸警備には土日だけ入りました。

 警護開始から2週間ほどたった日の深夜、依頼人の自宅の周りをうろつく男が現れました。私を含む警護2人は、玄関から直線距離で20メートルほどのところに停車した車内から監視しています。

 午前2時ごろ、依頼人宅の道路を挟んだ目の前に、白いセダンが停車しました。深夜の住宅街の路上に止まる車…明らかに不審車両です。車内から監視したところ、顔までは分かりませんが、男が1人で乗っているようです。助手席に向かって、ごそごそと何かを漁っているようでした。

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加藤一統(かとう・たかのり)

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事

1995年より身辺警備(ボディーガード)に従事し、これまで900件以上の警護依頼を請け負う。業界歴26年。現在は、優良なボディーガード会社や探偵会社を探すユーザーに向けた無料紹介所「ボデタンナビ」を主宰。紹介だけでなく、企業のセキュリティーから家庭の防犯まで、網羅的な質問にも答えている。護身・防犯用品の設計企画を行う「タカディフェンスデザイン」も運営。ボデタンナビ(https://bhsc.or.jp/)、タカディフェンスデザイン(https://www.t-d-design.com)、公式ツイッター(https://twitter.com/bodetan)。

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