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ストーカーから女性、どう守る? ボディーガードが語る緊迫の現場

ドラマや映画でよく描かれるものの、実際はあまり知られていない「ボディーガード」の仕事。現役のボディーガードが、ある一般女性を警護した際の実例を語ります。

ボディーガードは女性をどう守る?
ボディーガードは女性をどう守る?

 ボディーガードと聞くと、多くの人が「VIPの背後で周囲を警戒する黒スーツの男」を想像すると思います。もちろん、そういった仕事もありますが、近年多いのは、一般の人からの依頼です。

 今回は、元恋人によるストーキング被害を受けたA子さんの警護の実例を、現役のボディーガードであるKさんに語っていただきました。(個人情報保護の観点から、会話の内容などに一部アレンジを加えています)。

同棲中に暴力を振るわれ…

 A子さん(20代前半)は依頼の半年ほど前、SNSで知り合ったミュージシャン志望の男性と同棲(どうせい)を始めました。同棲といっても、相手の男性が勝手に転がり込んできており、ミュージシャン志望というよりは“ヒモ”志望だったようです。家に上げた直後から居つかれてしまいました。しかし、居ついただけでは済まなかったのです。

 同棲中に暴力を2〜3回振るわれたそうですが、最もひどかったのは、小遣いの要求と「言葉の暴力」でした。A子さんは早い段階で見切りをつけていましたが、簡単に出ていく男ではありませんでした。我慢を続けていましたが、最終的に母親に相談したそうです。そして、話は父親にも伝わり、本格的な問題解決に動き出しました。A子さんとしては「お父さんには知られたくなかった」そうですが、結果的に父親主導で動いたことが、解決への近道になりました。

 まず、父親の判断で、必要最低限な物だけを持って、実家に帰るよう指示したそうです。基本的に、ストーカーとは距離を取るべきなので、これは良い判断でした。幸い、この男性は彼女の実家の住所までは知りませんでした。しかしここから、電話とLINEが大量に来るようになります。内容は「俺が悪かった…」という謝罪に始まり、無視すると「絶対に見つけ出してやるからな!」という脅し。典型的なストーカーです。自業自得で捨てられ、揚げ句の果てに逆恨みですから、救いようがありません。

 このように、電話やメール以外に接触方法がない場合は、古い電話番号は残しながらも、家族や友人との連絡用に、新しいスマホと電話番号を持つのが理想です。なぜなら、ストーカーの場合、たとえ細い線でも「相手とつながっている」という事実が、凶行のブレーキになることがあるからです。一切の線を絶つと、思い詰めて、過激な行動に出る者もいます。

 その後、A子さんへの連絡があまりにしつこいので、父親の指示で、一度だけ会うことになります。借りているアパートをそのままにできないという事情もありました。その話し合いの場での立ち合いとして、警護を依頼されたのです。

ボディーガードが立ち合った「話し合いの場」

ボディーガード3人の配置図
ボディーガード3人の配置図

 今回は、2人が住んでいたアパート近くのファミリーレストランで、男性と話し合うことにしました。ファミレスや喫茶店のような「人が多い場所」の方が、相手が極端な行動に出にくいためです。このケースでは3人で警護しましたが、2人や1人の場合もあります。万全を期するなら3人が理想です。万が一の場合、取り押さえる人間が多い方が安全なのはもちろん、3方向から監視できるのが最大の利点です。1方向と比べて、初動のスピードが確実に違いますし、何よりも、毎回ベストな位置に警護が陣取れるとは限らないからです。

 ちなみに「立ち合い」といっても、多くの場合、警護は同席しません。近くの席で、赤の他人のふりをして警戒します。大抵のストーカーは、見ず知らずの男性が同席すると、「自尊心を傷つけられたと感じて攻撃的になる」「ジェラシーを感じる」「依頼人のおびえが悟られる(恐怖心を知られるのは、交渉上とても不利)」など、デメリットが多いのです。ただし、依頼人から「怖いので隣に座ってほしい」といった要望がある場合は、近親者のふりをして同席することもありますし、たとえ同席しなくても、「安心感で余裕ができたので、言いたいことがはっきりと言えた」とおっしゃっていただくことが多いです。

 A子さんのケースでも、同席はしていません。われわれはベストポジションを確保するため、男性との約束時間の45分前に入店していました。一方、男性は10分遅刻して姿を見せました。身長は180センチくらいの痩せ形で、革ジャンを着た30歳前後の男が、ふてくされた表情で、A子さんの向かいにドスンと座りました。相手も不安だったのでしょう。それがイキがった態度にありありと出ていました。ストーカー関連の依頼で一番多いタイプです。

 あいさつもそこそこに、A子さんの父親が本題を切り出しました。言うべきポイントはあらかじめレジュメにまとめてあり、その紙を、法律事務所の封筒から取り出して説明しました。ちなみに私は、男性と背中合わせの席に座っていたので、会話は全て聞こえています。

 法律事務所の封筒はブラフに効果的ですが、今回の場合は、実際に弁護士さんに相談されていたので、うそではありません。いずれにせよ、弁護士と警察の介入がトラブル相手のけん制に効果的なのは事実です。興奮気味だったクレーマーが、警官の姿を見た途端、トーンダウンすることはよくあります。男性は、落ち着きこそなくしていましたが、攻撃的にはなりませんでした。

 父親が出した条件は2つです。「二度と娘に近づかないこと」、そして「娘のアパートから退去すること。ただし1カ月の猶予を与える」という内容です。しかし男性は、「出ていくにも金がいるし…」といったことをゴニョゴニョと言いました。つまり、「金が欲しい」ということです。そこで、父親が「金を要求しているのか?」と聞いたのです。こう、はっきりと言われると「金をくれ」とは言えなかったのでしょう。男性は「そうじゃないけど、引っ越したくても引っ越す金がなくて…」と返してきました。

「それはこちらの責任ではないので知りません。とにかく、1カ月以内に出ていかなければ、この件は警察と弁護士に任せるつもりだ」。父親は、毅然(きぜん)とした態度で通告しました。この言葉で追い詰められる人間もいるので、人によって反応が大きく変わる瞬間ですが、彼の場合は「分かりました…」と小声で答えました。すると、父親が「先立つものがないと動きようもないだろうから」と言って封筒を渡しました。中身は数万円の現金です。

 これについて私は、「そんなことをする必要はないのでは?」と、あらかじめ伝えています。ただ、父親の意見は、「手切れ金でもあるので、これで遺恨がなくなれば安いもの」でした。このように考える人は少なくありません。しかし相手は、あぶく銭を有効に使うような人間ではありません。逆に味をしめて、再びたかりにくる可能性もあります。今回は、弁護士さんにも同じことを言われたそうですが、ご本人は渡すと決めていました。幸い、今回のケースでは悪い方向に転びませんでしたが、このやり方はお勧めしません。

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加藤一統(かとう・たかのり)

一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事

1995年より身辺警備(ボディーガード)に従事し、これまで900件以上の警護依頼を請け負う。業界歴26年。現在は、優良なボディーガード会社や探偵会社を探すユーザーに向けた無料紹介所「ボデタンナビ」を主宰。紹介だけでなく、企業のセキュリティーから家庭の防犯まで、網羅的な質問にも答えている。護身・防犯用品の設計企画を行う「タカディフェンスデザイン」も運営。ボデタンナビ(https://bhsc.or.jp/)、タカディフェンスデザイン(https://www.t-d-design.com)、公式ツイッター(https://twitter.com/bodetan)。

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