“無差別”はあり得ない? 自分や大切な人を突然の凶行からどう守るか 現役BGに聞く
発生するタイミングも場所も分からない「通り魔」。もし遭遇したとき、身を守るすべはあるのでしょうか。防犯関係の専門家である筆者が現役のボディーガードに聞いた、自己防衛の心構えとは。
今年8月、東京都世田谷区内を走行中の小田急線の車内で発生した無差別刺傷事件。1人の暴漢が手にした刃渡り約20センチの刃物によって、女性1人が重傷、他の乗客を含め、あわせて10人が重軽傷を負いました。
突然現れた、常軌を逸した犯罪者。このような人間が存在することに恐怖を感じた人も多いと思います。もし、日常生活の中で同じような場面に遭遇した場合、自分自身や大切な人を守る方法はあるのでしょうか。防犯関係の業務に長年、従事してきた筆者が一般の人にもできる自己防衛について、現役ボディーガードのAさんにお話を伺いました。
いち早く異変に気付くことの重要性
「防犯」とは、犯罪との遭遇率を意図的に下げることに他なりません。犯罪被害の多くは防犯対策によって抑えることができます。しかし、残念ですが例外も存在します。発生するタイミングも場所も分からない「通り魔」です。Aさんはこう語ります。
「池袋の暴走事故と同様、『そのとき、その場所にいた』だけの理由で被害に遭う事件は個人の力で遭遇率をコントロールすることはできません。しかも、小田急線の車内で起きた事件のようなケースは、現役のボディーガードであっても確実に身を守れる保証はありません。刃物による襲撃はそれほど恐ろしいといえます。
命を守る“鍵”は津波などの自然災害と同じく、危険を認識してから退避を完了するまでの時間です。小田急線の事件では、被害に遭った人の中でも、最初に襲われた女性とその他の人たちとでは、状況に大きな違いがあります。それは凶行を避けるために与えられた時間の差です。最初の女性が被害を避けるためには、犯人が目をつける前に『あの人、おかしい』と気付くか、相手が刃物を握る前の段階で逃げることが条件となります」(Aさん)
護身的に最も有効な手段は「逃げること」。いかに早く、自分に向けられた敵意・殺意に気付くことができるかは重要です。しかし、これが相当難しいということは誰もが想像できると思います。そんなときこそ、護身術の出番なのですが、刃物に対抗できるのは相当な熟練者だけだとAさんは言います。
「正直にいって、最初の被害者が危難を避けるにはかなりの『運』に頼らざるを得ません。ちなみに、ボディーガードが同じように襲われた場合、身を守れる確率は60~70%かと思います。意外と低い数字に驚かれたかもしれません。しかし、普通の人であれば、せいぜい10~20%程度。つまり、プロとアマチュアでは50%以上もの差が出るのです」
“無差別な犯行”は存在しない
当然ながら、普通の人がプロの技術をすぐに全て身に付けることは難しいでしょう。さらに、Aさんはプロの技術とは、無縁そうな人が狙われやすい面があり、本当の意味での「無差別な犯行」は存在しないと指摘します。
「よく、事件の報道で『無差別○○』という見出しが出ることがありますね。しかし、多くの犯罪者は確実に“獲物”を選んでから犯行に及びます。逮捕後に犯人が口にする『誰でもよかった』という言葉には『自分よりも弱ければ』という注釈が抜けています。『誰でもよかった』というのは真っ赤なうそで、しっかりと『狙いやすい人』を襲っているのです。
つまり、この手の犯罪において、女性・子ども・高齢者・障害のある人など、暴力に対する抵抗力が弱い人たちはどうしても狙われやすくなります」
そして、Aさんによると、犯罪者から見た「狙いやすい獲物の基準」がもう一つあります。小田急線のケースが当てはまるかは分かりませんが、一般的に犯罪者は「警戒心が高いか、低いか」も見ているというのです。
「襲う側にとって、凶行の成功率は最大の懸念事項です。そう考えれば、警戒心の低そうな相手を狙うのはある意味、当然でしょう。力のあるなしに関係なく、『周囲を警戒している人』というのは、獲物としてのハードルが高くなります。逆にいうと、警戒心を見せれば、それだけで狙われにくくなるということです。
かといって、辺りをにらみつけながら歩く必要はありません。犯罪者は“警戒レーダー”のある人とない人を見抜きます。警戒レーダーを身に付けることが、被害者にならないための第一歩といえます」
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