“無差別”はあり得ない? 自分や大切な人を突然の凶行からどう守るか 現役BGに聞く
身を守るための「2つの心構え」
突然の暴力は人の心身を萎縮させます。一般の人が暴力を前にして、落ち着いて行動するのは難しいことです。ただし、不利な状況をほんの少し有利に変えることなら可能です。身を守る鍵はやはり、「いかに早く異変に気付くか」です。そのために重要な「2つの心構え」について、Aさんに教えていただきました。
【(1)スマホに目を落とす時間を減らす】
歩きスマホが社会問題になって久しいですが、現在も街の至るところで多くの人が平然と行っています。警戒心の低さが一目で分かるので、もし、通り魔に遭遇したら、確実にターゲットにされるでしょう。無防備な状態を人前にさらす「ながらスマホ」は護身的にも最悪の行為です。
まず、心構えとして、「歩きスマホは綱渡りと同じ」だと思うことです。その気持ちがあれば、電車内や公共の場で、画面に没頭する時間が徐々に減ると思います。人は周囲を観察する癖がつくと、先述の警戒レーダーが発達します。もちろん、個人差はありますが、誰でも数日で変化が現れるはずです。
【(2)正常性バイアスに流されない】
先述したように、小田急線の事件の被害者は「最初に刺された女性」と「その他の人たち」に大別できます。こうした事件の場合、最初に襲われる人には被害を避けるための時間がほとんど与えられていません。一方で、他の人たちは犯人からの距離が遠いほど、多くの時間が与えられています。つまり、前提条件がまるで違うのです。
しかし、事件当時に同じ電車に乗っていた人が撮影した事件発生直後の映像を見ると、ほとんどの乗客が戸惑いを見せているものの緊張感はあまり感じられません。こうした隙に通り魔は黙って接近し、致命傷を与えます。攻撃を待ってはならないにもかかわらず、なぜ、いち早く動かないのでしょうか。これには誰しもが持っている、ある心理が影響しています。
「正常性バイアス」や「同調バイアス」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「大したことはないだろう」「周りも気にしていないから大丈夫」といった心理状態がいち早い行動を妨げる主な原因です。多くの人は警報を受け取っても「大したことない」と根拠のない判断をしがちです。
身を守る上で初動の早さは大事な要素。「闘争」か「逃走」かいずれを選ぶにしても、即断が重要になります。他人の判断は当てになりません。むしろ、周りが間違いだったケースが多いと知ることが第一歩でしょう。甘い判断が一定の割合で事故につながります。
正常性バイアスに流されないためには「そうした心理が自分の心に存在する」と認識する必要があります。違和感と恐怖は最も信頼できる危険のサインだからです。ただし、過剰な警戒心を抱えた生活は心に変調を来す恐れがあります。人間は多少の問題はスルーすることで、日々、絶え間なく起こる違和感に不安を抱かずにいられます。
一つ一つ全てを気にしていると大変な心労を抱えることになるでしょう。実はそうした意味で、正常性バイアスは社会生活を送る上で必要な「心の安全装置」でもあるのです。常に気を張り詰める必要はありません。何か違和感が生じたら、「もしかして…」と注意し、結果、「何ともなかった」と空振りするくらいがちょうどよいのだと思います。
どうしても避けられない危険が訪れたときは、護身術や護身用品という“最後のとりで”に頼らざるを得ないこともあります。しかし、日常生活上の何気ない行動と意識を変えるだけで多くの危険を回避できる可能性が高まるのです。
(一般社団法人暴犯被害相談センター代表理事 加藤一統)

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